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「STAY HOME」でできる熱中症対策

医師 小倉 康平

2020年もついに折り返しを迎えましたが、皆様どのようにお過ごしでしょうか。新型コロナウイルスのために一年の前半は自宅で引きこもっていたという方も多い中、気づけば夏を迎えてしまいました。5月末に緊急事態宣言こそ解除されたもののやはり第二波、第三波の不安は拭えず、今も外出自粛をはじめとする感染対策の徹底が求められています。

長引く外出自粛による心身の不調も以前より問題視されています。「コロナ太り」という言葉がよく話題となりますが、肥満や生活習慣病もその一つです。外出の機会が減ることで日々の身体活動量が減るとともに、外出できない閉塞感や先行きへの不安から間食や飲酒の機会が増え、睡眠や食事のリズムが乱れることでホルモンや代謝のバランスが崩れるため、体重が増え、糖尿病、脂質異常症、高血圧といった生活習慣病の悪化やそれに伴う心筋梗塞など重大疾病の発症も危惧されています。

また特に高齢者では、身体活動量が減ることで骨や筋肉、心肺機能が弱ってしまう「コロナ痩せ」とともに、他者と接する機会が減ることにより認知機能が低下したり精神的に弱ってしまったり、社会とのつながりが減ることで自分の役割を見失ってしまうことで、「フレイル」と呼ばれる心身の重度の弱体化も心配されます。

そんな中、外の世界は酷暑の季節を迎えてしまいました。外出自粛で弱ってしまい、暑さに慣れていない身体にとって、熱中症のリスクは例年にも増して高くなっています。
そこで今回は「STAY HOME」しながらできる熱中症予防を考えていきます。

熱中症のリスクと予防について

暑い場所で水分を摂らないでいると熱中症になる、ということは多くの方がご存じのことと思います。熱中症になるかならないかは、図のように、熱中症を起こしやすくなるリスク因子と、熱中症にならないように身を守る予防因子のバランスが保たれているかどうかで決まります。図でわかるように熱中症のリスク因子は、高い気温や湿度、強い輻射熱などの環境要因はもちろん、運動強度や服装といった行動要因、持病や飲んでいる薬、疲労や体調不良などの身体要因などとても多様です。一方で予防因子はというと、水分・塩分の摂取、身体の冷却、暑さへの耐性や体力とシンプルです。

長く外出自粛していた方は、暑さへの耐性を獲得していないばかりか、筋肉や心肺機能をはじめとする体力の低下によって予防因子が小さくなっているおそれがあり、バランスが崩れやすい状態になっていますので、これらの点を「STAY HOME」しながらいかに補うかが課題と言えます。

しかしながら何か特別な解決法があるわけではありません。弱った筋肉と心肺機能を鍛えなおし、上昇した体温を冷やす機能を高めるしかないのです。そのために必要なのは「運動」と「食事」に他なりません。

運動をすれば筋肉と心肺機能が高められ、血液量が増えて汗もかきやすくなるため、運動は熱中症対策にうってつけです。しかし「STAY HOME」を求められる今、自由に外出することさえ憚られるという方もいるでしょう。そこでまずは家の中でできることを見てみましょう。

家トレ3点セット「腕立て伏せ」「プランク」「スクワット」

家の中でする運動としてまず思いつくのは筋肉トレーニングいわゆる家トレです。筆者がおすすめするのはシンプルに「腕立て伏せ」「プランク」「スクワット」の3点セットです。ジムなどで日々本格的に鍛えてきた読者の方の中には「もったいつけてそれだけ?」と思う方もいらっしゃると思いますが、この3点セットを組み合わせることで上半身と下半身、お腹と背中、インナーマッスルとアウターマッスルのそれぞれをバランスよく鍛えることができます。実は筋肉(骨格筋)は身体の中でも特に水分を多く含む臓器で、水分の貯蔵庫としての役割があります。筋肉を発達させることは、貯めておける水分量を増やすだけでなく、末梢血管を発達させることで非蒸散性熱放散(汗などに頼らない熱の放散)と蒸散性熱放散(汗による熱の放散)を高め、熱中症に強い身体となるのです。

特別な器具を必要とせず、やり方がシンプルで誰もが正しい方法で無理なくできる点も魅力です。一方で自重を利用したこれらのトレーニングでも、スピードや回数を上げるなどのやり方の工夫はもちろん、鍛える筋肉を意識した正しいフォームで行うことで十分効果を上げることができます。ただし無理は禁物です。膝や肘を痛めないよう自分に合った負荷で日々行えば、目に見えて筋肉は発達し、連続回数や連続時間が増えていきます。自分自身にチャレンジしてみてください。

ホームグラウンド内で運動する

筋肉トレーニングによって身体が温まった方は思い切って外に出てみましょう。「STAY HOME」とは「外出禁止」と同義ではありません。新型コロナウイルスの拡散を防ぐため、人、特に他の地域の人が集まっているところに行かないようにすることで、お互いに感染しないよう気を付けることを意味します。よって「STAY HOME」の「HOME」とは、自宅のみを意味するのではなく、自分のホームグラウンド、すなわち自宅を中心に普段から通うスーパーや銀行、郵便局、医療機関、そして職場といった自分が生きていくために行き来しなければならない最小限のコミュニティと言えます。自分の健康を守るためにホームグラウンド内で運動することをためらう必要はありません。ただし感染予防の基本を守ることが大切です。

有酸素運動で暑さへの耐性を高める

有酸素運動では、軽度から中程度の負荷をかけた運動を、比較的長時間連続して行います。筋肉を一回当たり収縮させる力は筋肉トレーニングには及びませんが、しっかりと酸素を取り込み糖質や脂質を燃やしながら全身の筋肉をくまなく使う有酸素運動は、体重を減らしたい、脂肪を減らして筋肉をつけたい、かっこいい身体になりたいという方にぜひ取り入れていただきたい運動です。

負荷を時間で調節できるためトレーニングによる怪我のリスクが少ないのも魅力です。ジョギング、サイクリング、水泳など様々ありますが、自分の興味があるもの、周囲の環境でやりやすいものからチャレンジしてみましょう。

もちろん熱中症対策としても有効です。「やや暑い」と感じる環境で「ややきつい」と感じる運動を行いましょう。環境からの熱と体内で作られる熱によって、疑似的な暑熱環境をつくることができ、暑さへの耐性を高めることができます。運動の強度を調節できるため無理をせずに取り組めます。5月~6月では日中に、7月を過ぎれば朝や夜の涼しい時間を利用して、一日30分程度、二日に一回程度の頻度で行えば効果的です。体力に自信のない方は、3分間の軽い運動と3分間のややきつい運動を繰り返すインターバルトレーニングから試してみてください。

運動時のマスク使用について

気温が高くなってくると「マスクをしていると蒸れて暑い」という意見が多く聞かれます。暑い中で常にマスクをしたまま過ごしていると、呼気からの熱の放散が妨げられるとともに、マスク内の湿度が高いために喉の渇きを感じづらくなる可能性もあり、運動中のマスクの使用は熱中症のリスクが高まります。マスクを外してはいけないといった思いから、気づかないうちに水分補給の機会を逃してしまう等、脱水になりやすいといえるでしょう。そこで、①屋外で十分なフィジカルディスタンスを保てる場合はマスクを外す、②人通りの多い場所でのマスク着用時は運動のペースを落とす、③マイボトル(水筒)等を携帯していつでも水分補給ができるようにする、といったことを心がけてみましょう。運動と感染対策は、工夫次第で十分両立できます。

しっかり朝ごはん

筋肉量を増やすためにも、血液量を増やすためにも、食事はとても大切な要素です。筋肉も血液も、その主成分はタンパク質。よって食事から十分なタンパク質を摂っておかなければせっかくのトレーニング効果も半減します。エネルギーも重要です。暑熱環境で身体の機能を維持する、筋肉や血液を作る、身体を動かすなどあらゆる身体活動にはエネルギーが必要です。ダイエットを兼ねたいと十分なエネルギーを摂らずにいると、脂肪よりも燃えやすいタンパク質を利用するために筋肉が分解され、暑さに弱くなってしまうおそれさえあります。よって食事ではタンパク質、糖質、水分のバランスに注意しましょう。と言っても難しく考える必要はありません。まずは朝ごはんをしっかり食べるようにしてください。実は、朝起きたばかりというのはとても熱中症リスクが高いのです。意外かもしれませんが、私たちは寝ている間に汗や息から約500mlの水分を失っており、生きるために300kcal以上のエネルギーも使っています。直近の食事から10時間近くも飲まず食わずで迎える朝は、脱水とエネルギー不足の状態なのです。朝ごはんの重要性、もうお察しいただけたことでしょう。

日々の生活習慣を大切に

残念ながら熱中症予防に特効薬のようなものはありません。日々の生活習慣こそがすべてです。新型コロナウイルスという未曽有の脅威を前に、私たちは感染症対策にばかり目が行ってしまいます。そんな中、忍び寄るように到来した夏ですが、熱中症は年間に数万人を救急車に乗せ100人以上を死亡させており、新型コロナウイルスに勝るとも劣らない健康リスクであることを忘れてはなりません。新型コロナウイルスとも猛暑とも共存していかなければならない今を、工夫と思いやりで乗り越えていきましょう。

「健康さんぽ87号」

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