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たかが眠気と侮ってはいけない
睡眠時無呼吸症候群について

医師 桝元 武

1.睡眠時無呼吸症候群とは何か

睡眠時無呼吸症候群(以下SAS:Sleep Apnea Syndrome)は、睡眠中に呼吸が止まった状態(無呼吸)が断続的に繰り返される病気です。その結果、十分に睡眠がとれず、日中の眠気、集中力の低下、居眠りがちになる、居眠り運転で重大事故などを起こしやすくなる、などの危険な状態につながります。定義は、「一晩(7時間)の睡眠中に10秒以上の無呼吸が30回以上おこる。または、睡眠1時間あたりの無呼吸数や低呼吸数が5回以上おこる。」というものです。

2.人体への危険性

厚生労働省研究班では、睡眠1時間あたりの低呼吸数が20回以上おこる場合で、5年後の生存率は84%(すなわち死亡率は16%)と報告しています。このように、SASを治療せずに放置しておくと生命に危険が及ぶ可能性があります。体内で酸素不足が起きれば「寝苦しい」「息苦しい」などの自覚症状が現れ、結果的に睡眠不足になります。また、同時に循環機能に負担がかかり、不整脈、高血圧、心不全などが現われ、事故や突然死につながるなど、様々な問題が出てきます。SASの多くは高血圧、心臓病、脳卒中、糖尿病などの生活習慣病を合併しています。最近では、肥満、糖尿病、高血圧、高脂血症の「死の四重奏」に「SAS」を加え、「死の五重奏」と言われることもあります。逆に、SASを治療することで「四重奏」を軽減できたり、予防することもできます。SAS治療をすることで高血圧の薬を減量できた方もいらっしゃいます。適切な検査を行い、ご本人にあった治療を行うことが大切です。

事故の例

SAS特有の昼間の眠気は居眠り運転事故や労働災害などにつながります。

例えば、2003年には山陽新幹線の居眠り運転事故が発生しています。これは、時速270㎞で走行中に運転士が8分間居眠りし、自動列車制御装置が作動して、岡山駅ホームの途中で自動停車したものです。のちにSASであったことが判明したこの運転手は、車掌に起こされるまで、運転席で熟睡していました。この事故を受けて、国土交通省は陸海空の交通機関に共通する大きな問題であるとの認識のもと、SASの簡易マニュアルを作成しました。これは最近も更新されています。

また、海外でも1979年アメリカスリーマイル島原子力発電所事故、1986年アメリカスペースシャトル「チャレンジャー号」爆発事故、1989年アラスカ州「エクソンバリデス号」座礁・原油流出事故、いずれも作業員の睡眠不足・睡眠障害が原因のひとつであるとの最終報告がなされています。たかが眠気と侮っていると大事故などを起こしかねません。

3.原因について

SASには、次の3種類があります。ほとんどは閉塞型で、中枢型は少ないといわれます。

■ 閉塞型睡眠時無呼吸症候群(OSAS,Obstructive SAS): 上気道の閉塞によるもので呼吸運動はあります。閉塞の原因は、首周りの脂肪の沈着、扁桃肥大、アデノイド、気道へ舌が落ち込む、舌が大きい(巨舌症)、鼻中隔が曲がっているなどがあげられます。また、欧米人の場合は肥満している人がほとんどですが、日本人では顎が小さい(小顎症)ため気道がふさがれやすく、やせていてもSASということもあります。SASの方全員が太っているとは限りません。

■ 中枢型睡眠時無呼吸症候群: 大脳の呼吸中枢の障害により呼吸運動が消失するものです。

■ 混合型睡眠時無呼吸症候群: 閉塞型と中枢型の混合したものです。

4.症状について

SASはさまざまな症状を伴います。いびき、日中の眠気、起床時の頭痛、睡眠中に脳が覚醒状態になる(中途覚醒)、不眠などがあります。また、次のような報告もあります。「SAS男性のメタボリック・シンドローム合併率は49.5%で、同症候群ではない男性(22.0%)の2倍以上。女性の合併率は32.0%で、同症候群ではない女性(6.7%)の約5倍。さらに、メタボリック・シンドロームの診断基準(腹部肥満、高血圧、高血糖、高脂血症)のうち、女性の血糖値を除いたすべての項目で、症候群の集団の方が、そうでない集団より数値が悪い。」ということがわかりました。生活習慣病とも密接に関連していることがうかがわれます。

5.専門的な検査と治療法について

無呼吸を指摘されたり、SASの疑いがある場合は、専門医療機関などへ受診する必要があります。

■ 終夜睡眠ポリグラフィー検査: 睡眠状態(眠りの深さや睡眠の質)と呼吸状態を同時に測る検査です。脳波や心電図、胸部・腹部の動き、鼻からの気流、動脈血中の酸素の量を連続して計測し、その結果をトータルに医師が判断します。この検査は体に電極やセンサーなどをつけて行いますが、決して、痛い検査ではありませんので、ご安心ください。

■ CPAP(Continuous Positive airway Pressure:経鼻的持続陽圧呼吸療法)療法:

SASの治療法の中で最も有効性が高く、安全かつ確実な方法がCPAP療法です。睡眠中に鼻マスクを装着し、鼻マスクから空気が一定圧で送り込まれ、睡眠中に緩んだ喉の筋肉によって気道が閉塞するのを防ぎます。これを使うことによって、熟睡ができるようになり、昼間の眠気から解放され、仕事や運転などでも眠気がなく、集中できるようになることが多いです。導入当初のマスクや、空気圧の違和感などには徐々に慣れていきます。治療成功のカギは、適正な空気圧設定とマスク選択/フィッティングです。そのため専門医療機関を受診し、睡眠ポリグラフ下で適正圧を設定/効果確認することが重要です。

日本では、中等症以上(1時間あたりの無呼吸/低呼吸指数が20回以上)の場合で健康保険が適用されており、自己負担は3割負担で月に約5000円弱程度です。但し、健康保険でこの治療を受けられる場合、毎月必ず外来受診することが必要です。軽症であっても、日中眠気が強い方は、健康保険適応外であっても試みてみるべき治療法であるといわれます。重症の場合、虚血性心臓病や脳血管障害による死亡のリスクを軽減することができるとの報告もあります。

■ マウスピース療法: 主にいびき症の方や軽症の無呼吸症の方に有効な治療です。無呼吸症の方に適応されるマウスピースは、一般の歯ぎしり防止用やスポーツ選手が使用されているものと異なり、下顎を前方数㎜突き出してかみ合わすようにするもので、個人の歯形に合わせて製作します。これにより咽頭部が広がり、睡眠中に気道が狭窄/閉塞することを防ぎます。副作用として顎の痛みや違和感がありますが、数ヶ月の使用で慣れていくケースがほとんどです。

マウスピース作成後は、その治療効果をポリグラフ検査で確かめることをお勧めします。総入れ歯や、ひどい顎関節症の方は使用できません。簡易検査などで「無呼吸が軽症で治療が必要でない」と診断された方の中にも睡眠の障害が比較的強い場合があり、一度専門施設を受診され治療を試されることをお勧めします。

6.生活習慣で気をつけること

減量: 肥満している方は食事療法や運動を行い、減量に励みましょう。

飲酒の制限: お酒は上気道の筋力を弱める作用があり無呼吸を悪化させるため、寝る前の飲酒はやめましょう。

禁煙: タバコは上気道炎症を起こしたり、上気道の筋力を低下させるとの報告があります。

睡眠薬: 睡眠薬の中にはかえって無呼吸を悪化させるタイプのものがあります。睡眠薬を服用している方は主治医に相談しましょう。無呼吸の適切な治療により睡眠薬が不要になる場合もあります。

7.医療機関について

特定の医療機関をこの紙上で紹介することは出来ませんが、インターネットでSASの検査・治療ができる医療機関を検索できます。あらかじめ電話で確認してから受診されることをお勧めします。

「健康さんぽ52号」

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