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「もしも」の時にあなたができること~救急蘇生法~

医師 小倉 康平

もしも近くにいた人が急に倒れたら、もしも交通事故の現場に遭遇したら、もしもおぼれた人を助けることになったら・・・誰もが想像したことがある「もしも」は、ある日突然、何の前触れもなく起こります。家族、友人、職場の同僚、もしくは見知らぬ誰かかもしれません。初詣の参道、初売りセールのショッピングモール、新年会の帰り道、寒中水泳や寒中マラソン、天災で避難中、どんな状況でも起こりえます。もしもあなたが冒頭のような状況に出くわし、すぐに救急車を要請したとしても、その到着には平均で8.6分を要すると言われています。イベントで混雑していたり、郊外だったり、天災の只中だったりすると、さらに長い時間を待たなければなりません。

「カーラーの救命曲線」というものがあります。人は心臓が止まってから3分、呼吸が止まってから10分、多量の出血をしてから30分が経過すると、半分の確立で死亡し、それを過ぎれば救命率が非常に低くなります。また、たとえ救命できたとしても、脳をはじめとする重要な臓器が酸素欠乏によってダメージを受け、後遺症がより重くなってしまいます。病気や怪我で人が倒れた時、その人が生きるか死ぬか、後遺症を残さず社会復帰できるかどうかは、近くにいたあなたの救命処置にかかっているのです。

さて、もしもあなたが誰かが倒れるのを目撃した、あるいは倒れている傷病者を発見したら、どのような行動を起こすでしょうか。近寄って声をかける、119番や110番に通報する、近くにいる人を呼ぶ、家族や友人などに電話してどうすれば良いか聞く、いろいろな選択肢があり、いずれも正解です。大事なことは、何かアクションを起こすこと。見なかったことにだけはしないでください。そして、自分のことも考えましょう。人が倒れるにはなにか大きな理由があります。心臓の病気など個人的な理由である可能性ももちろんですが、それが車道だったり、工場の中だったり、山中のくぼ地だったりした時には、不用意に近づくことで自分が車にひかれたり、化学物質を吸い込んだり、酸素欠乏に陥ったりする可能性も考えなければなりません。そのため、周囲の安全確認を行い、大声で近くの人に助けを呼ぶことができればより良いでしょう。

倒れている人を見つけた時にやるべき積極的なアクションは、大きく①傷病者の状態確認と必要に応じた心肺蘇生、②119番に通報して救急隊とやりとり、③AEDを手に入れる、の3つがあります。よって、安全確認を行い人が集まったら役割分担を行いましょう。必ずしも自分がリーダーシップをとって心肺蘇生を担う必要はありません。倒れた瞬間を見たのであれば救急隊に詳細な状況を伝えることができますし、周辺の地理や施設に詳しければAEDの場所に思い至るかもしれません。自分にできることを提案しましょう。また、119番に通報すると、通信司令員が心肺蘇生などについて指示してくれます。落ち着いてそれを復唱し、周りの人と情報共有しましょう。

*「大丈夫ですか?」の声かけ

傷病者の状態確認をする際、呼吸しているか、心臓が動いているか、出血や骨折はないか、頭は打っていないかなどいろいろなことが気になりますが、それを詳しく調べる必要はありません。逆に、詳しく調べようと体を動かしたり揺さぶったりすることで状態を悪くしてしまうことさえあります。そのため、シンプルに「大丈夫ですか?」と声をかけます。これで返事や手振りなどで明らかな反応があればひとまず安心です。反応がない、あるいはわかりにくい場合には、傷病者の足元を見るようにしながら傷病者の口に自分の耳を近づけましょう。わずかな声や呼吸の音が聞こえたり、頬で息を感じたり、胸やお腹が動いているのが見えれば呼吸や心臓の動きが保たれているとわかります。

一方、これでも反応がない、あるいはわからない場合には、呼吸や心臓の動きが止まっていると判断し、心肺蘇生に移ります。なお、医療従事者が心停止の判断を行う際に頸動脈の脈を確認することがありますが、一般の方では判断が難しいため行う必要はありません。また、心停止の判断を間違えて心臓が動いている傷病者に胸骨圧迫(心臓マッサージ)をしてしまうことを恐れる必要はありません。胸骨圧迫によって肺や心臓など重要な臓器を傷つけることはほとんどありませんので、心停止の判断は数秒で行い、わからなければ躊躇(ためら)わずに胸骨圧迫を開始しましょう。

*胸骨圧迫について

胸骨圧迫の基本は「強く、早く、絶え間なく」の3つです。圧迫するのは胸の真ん中、乳首と乳首の間か少し下あたりが目安となります。成人(体格のよい小児を含む)では胸が5㎝以上沈むように、両手を組んで手の根本に体重をかけるようにして真上から圧迫します。乳児(1歳未満の赤ちゃん)の場合は二本の指を使い、胸の厚さの約1/3が目安となります。

そして、1分間に100回以上のテンポ(100~120回)で絶え間なく圧迫を続けましょう。1分間に100回とは、童謡「うさぎとかめ」、「アンパンマンのマーチ」、SMAPの「世界に一つだけの花」などのテンポです。遅すぎるのはもちろんですが、早すぎると「十分に押して、押した分だけ戻す」ことができず胸骨圧迫の効果が落ちてしまいますので、頭の中で曲を歌いながらそれに合わせて圧迫するのがコツです。

*人工呼吸について

医療従事者が心肺蘇生を行う場合、胸骨圧迫と人工呼吸を30:2の比率で行う方法が一般的です。また、これまで一般の方向けの心肺蘇生講習でも胸骨圧迫と人工呼吸を交互に行う方法が指導されてきました。しかし、出血や嘔吐など救助者の感染リスクがある場合や口と口を直接接触させることに抵抗がある場合、化学物質の吸引や誤嚥では救助者が人工呼吸で化学物質に曝露してしまう場合もあり、必ずしも人工呼吸を行わなければならないわけではありません(窒息、溺水、小児の心停止などの場合は、人工呼吸を組み合わせることが望ましいとされています)。胸骨圧迫を適切に行うことで呼吸も促進されますので、人工呼吸が難しいときはひたすらに胸骨圧迫を続けましょう。

*AEDが到着したら

AEDが到着したら、速やかに装着し使用します。AEDはAutomated External Defibrillatorの略で、日本語では自動体外式除細動器と言います。電源を入れてパッドを傷病者に装着すると機器が自動で心電図を解析し、心室細動(心臓の規則的な動きが失われ、血液を全身に送り出す機能を果たせなくなる不整脈)を検出すると除細動(電気ショックを与えて心臓の動きを正常化させること。電気ショックは救助者がショックボタンを押して行う)を行ってくれます。心室細動は、急性心筋梗塞をはじめとする様々な心臓病だけでなく、熱中症など極度の脱水や電解質異常、事故などで胸部に強い物理刺激を受けた時(心臓震盪)などでも起こる不整脈で、「急に人が倒れる」時の原因として頻度の高いものです。AEDは電源を入れると音声ガイドが流れ、各所にイラストなどが描かれていますので、比較的簡単に取り扱うことができます(最近は外国人向けに日本語と英語のバイリンガル設定ができるものも出てきました)。

ここで、AEDを使うときの注意点を一つ。AEDが心電図を解析しているときと、電気ショックを行うときは、傷病者の体に触れてはいけません。しかし、それ以外の時には絶え間なく胸骨圧迫を続けなければなりません。心電図の解析の直前まで胸骨圧迫を続け、そして電気ショックを行ってすぐに胸骨圧迫を再開できるよう、胸骨圧迫を行う人とAEDを使用する人がタイミングを合わせる必要があります。慌てる必要はありませんので、落ち着いて「離れてください」「胸骨圧迫をはじめます」など声を掛け合いましょう。

AEDは定期的に心電図の解析を行います。よってパッドは貼りっぱなしのまま、救急隊に引き継ぐか、傷病者の呼吸が回復するまで、AEDの音声ガイドに従って心肺蘇生とAEDを繰り返しましょう。

*スマホ・携帯電話にもしものためのアイコン

本医師会のホームページ(https://www.med.or.jp/99/index.html)では、これまでお話ししてきた心肺蘇生法の手順だけでなく、喉に食べ物などを詰まらせた際の気道異物除去や子供の一時救命処置についてもわかりやすく解説されています。また、いざという時すぐに見られるよう皆様のスマートフォンや携帯電話のホーム画面に救急蘇生法のアイコンを作ることもできます。ぜひ一度アクセスしてみてください。

この記事を読んだ読者の皆様が「もしも」に遭遇したとき、大切な人や同じ社会に生きる仲間のため何か一つでも多くのアクションを起こせることを祈っています。

「健康さんぽ85号」

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