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「ストレス」でポッキリと折れてしまう話

医師 山瀧 一

…といいましても、まずは聴診器が折れてしまう話から。

診察では聴診器が手放せません。健康診断では主に心音・心雑音、呼吸音を聴き取っていますが、そのほかにも動脈にあてて血管の雑音を聞く、お腹にあてて腸の動く音を聞く、血圧測定に使う、などなど様々な場面で使います。聴診器は、イアーチップ(耳に入れる部分)とそれを取り付けてある金属製の耳管、その先に続くゴム管、そして体に当てるチェストピースで構成されています。

耳管には板ばねが取り付けられていますが、この板ばね、長く使っているとポッキリと折れてしまうのです。最初に買った聴診器は、学生のころは実習に、研修医のころは仕事中はもちろん眠るときも首にかけているぐらい愛用(?)していましたが、やがて板ばねに微妙なきしみを感じるようになり、そしてある日使おうとしたところポッキリと折れてしまいました。使用している聴診器は板ばね・耳管・ゴム管が一体となったタイプのため、こうなってしまうと新調またはチェストピース以外の部分を丸ごと交換するほかありません。

この板ばねには、聴診器を外すときには開く力が、またポケットにしまう時には曲げる力がかかります。そのため、長年の使用で金属疲労を起こしやすいようです。板ばねに繰り返しかかる力とそれによる変化は、工学分野の本来の意味でのストレスと言えます。

近年、ストレスという考え方は工学分野から医療・保健・心理分野に応用され、現在ではむしろこちらの意味で広く用いられるようになりました。もちろん職場でもストレスは大きな課題となっています。精神障害への労災補償請求・決定件数は増加傾向にあり、また平成24年の労働者健康状況調査では「強い不安・悩み・ストレスを感じる事項がある」と回答した労働者が60.9%を占めていました。このような情勢から労働安全衛生法が改正され、事業者には平成27年12月以降、1年以内ごとに1回、労働者にストレスチェックの実施を行うことが義務付けられました。当面は従業員数50名以上の事業場に限定、また労働者は”全員が受けることが望ましい”とされていますが受検義務は課せられていません。

このストレスチェックは心身の不調そのものを見つけることを主目的とはしておらず、むしろその前段階にある高ストレスの状態を個人単位・職場単位で評価し、早めに対応することでストレス要因を減らすことをねらいとしています。現在、当センターでも専門機関と連携しての対応準備を進めているところです。ストレスチェックが、結果をただ受け取るだけでなく、一人一人の、また職場全体でのムリへの気づきと改善のきっかけとなることを願っています。

いま使っている四代目の聴診器も、このところ板ばねの部分に微妙なきしみを感じるようになってきました。少しでも長く使えるよう、丁寧に使うことを心掛けたいと思います。

「健康さんぽ67号」

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