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いつかはあなたもオリンピアン⁉
今日からできる体力づくり

医師 小倉 康平

待ちに待った東京2020オリンピック、皆様盛り上がっていますでしょうか?コロナウイルスに出ばなを挫かれ延期となってしまいましたが、改めてぐいぐい盛り上げていきたいものです。

オリンピックで一流のスポーツ選手たちが見せる超人的とも思えるパフォーマンス、本当に楽しみです。各国のオリンピアンたちは、最後の調整に向けて今この時間もトレーニングを積み重ねていることでしょう。さてオリンピアンをはじめとする高レベルの選手たちは、どのようにしてその高い競技パフォーマンスを獲得したのでしょうか?

根性と忍耐で苦しい練習を積み重ねる時代は過ぎ去り、最近は「科学的トレーニング」が主流となっています。無駄なく効率的な身体の動かし方を解析する「スポーツバイオニクス」、選手の身体機能やその特性を解析する「運動生理学」、競技に適した身体とスタミナに必要な食事を考える「スポーツ栄養学」、緊張の中でパフォーマンスを出すための「スポーツ心理学」など、現代のスポーツ選手たちは様々な分野のスポーツ科学を活用しています。かといって特殊な機器を使えば楽にトレーニングできるというものではありません。選手たちの高い競技パフォーマンスを裏打ちしているのは「しっかり食べて」「しっかり運動して」「しっかり休む」という日々の基礎的な体力づくりの繰り返しであり、様々なスポーツ科学は最も効率的に組み合わせるための方程式を与えるにすぎません。そして最近では関連する書籍やネット情報により一般のスポーツ愛好家にもこれらの知識が広く普及し、アマチュアであっても非常に高いレベルで競技を行うようになりました。

体力とは?

さて読者の皆様は「体力」に自信はありますでしょうか?そもそも「体力」とはなんでしょうか?「スポーツで体力を鍛える」「年を重ねるごとに体力の衰えを感じる」 「最近の若者は体力がなさすぎる」といったように、日常会話でよく使う「体力」という言葉ですが、その意味はどこかあいまいです。

「スポーツで体力を鍛える」のように、スポーツや教育の分野で使われる「体力」という言葉には、筋力や持久力といった運動能力の意味合いが強くなります。「年を重ねるごとに体力の衰えを感じる」では運動能力だけでなく、疲労や病気への耐性や回復力といった意味が加わります。

また、身体を動かすことへの気力やモチベーションという意味もあるでしょう。「最近の若者は体力がなさすぎる」のように心身のストレスに対する忍耐力や、困難な状況を切り抜ける応用力や判断力、目標に向かって頑張る意志や意欲といった精神的な能力を意味する言葉として使われることもあります。実はこのいずれもが正解です。体力は「人間の生存と活動の基盤をなす身体的および精神的能力」と定義され、上図のように実に様々な要素が含まれます。逆に言うと、様々な健康要素の総合力が「体力」であるとも言えるのです。活動の種類によって求められる体力の要素は大きく異なり、また同種類の活動(例えばスポーツ)であっても種目によって多少の違いがあります。

スポーツをするのであれば、とりわけ重要なのは「筋力」や「持久性」といった行動体力でしょう。例えばマラソンであれば、下肢の「筋力」や「持久性」が大切なことは容易に想像がつきます。だからといって下肢の筋トレばかりをやっていても、タイムはあまり伸びません。「平衡性」や「柔軟性」、「協応性」といった他の機能要素はもちろん、「姿勢」「温度調節」「判断」といった異なる系統の要素も重要で、またこれらがバランスをとっていなければ結果に結びつかないのです。

さらに大会で結果を残すためには「免疫力」「ストレス抵抗性」といった防衛体力も同時に要求されます。世界と戦う高レベルの選手たちは、大会当日に最高のパフォーマンスを発揮するため、各スポーツに特化した身体的行動体力を獲得するための過酷なトレーニングを積むとともに、その非常な能力と釣り合う他の体力要素を鍛えるために、心身を極めて繊細に調整しているのです。

健康な身体は運動なくしては得られない

しかし世界と戦う体力を求めて本誌を読んでいる読者の方は少なく、どちらかというと「運動を心がけているが思うように痩せない」「体力をつけて病気を予防したい」「仕事や日常生活で活発に活動したい」「最近疲れがとれなくて困っている」といったニーズを持っている方が多いことと思います。このような一般的な体力づくりにおいて、先に述べたオリンピアン達のような厳しいトレーニングやバランス調整は重要ではありません。一方で、日々の基礎的な体力づくりの重要性は、運動選手も私たちにも共通しています。それゆえに栄養・運動・休養は健康の3要素とも呼ばれるのです。しかし言うは易し、健康の3要素のバランスをとることは案外難しいものです。特に、エネルギーを消費し身体を酷使することでその発達を促す「運動」と、エネルギーを蓄え身体を休ませる「栄養・休養」は一見相反する行動です。

獲物を追いかけたり鍬や鋤で畑を耕したりする機会の少ない現代人が「栄養・休養」に偏り肥満や生活習慣病が増えるのは仕方のないことなのかもしれません。しかし、私たちはこのスクラップ&ビルドを繰り返すことで常に新しく強い身体を維持しています。よって健康な身体は、運動なくしては得られないのです。

体力を養う運動とは?

体力を養う運動の基本は、有酸素運動です。有酸素運動を行うと、体内により多くの酸素を取り入れ、血流に乗せて筋肉に送り届けようとする能力が高まります。そのために発達する臓器は、酸素を取り入れる「肺」、血液を流す「心臓」と「血管」、そして意外かもしれませんが酸素の運び屋である「血液」です。血液が臓器?と思う方も多いと思いますが、血液も立派な臓器の一つ。酸素を運ぶ赤血球だけでなく、白血球やリンパ球といった免疫細胞も合わせた細胞の塊で、さらには体温調節や水分塩分の調節、血圧の維持など様々機能を担っています。また全身の細胞一つ一つは少しでも効率的にエネルギーを作ろうと、ミトコンドリアをはじめとする「細胞内臓器」を発達させます。これらのメカニズムによって有酸素運動は心肺能力や代謝機能を鍛え、肥満や高血圧の予防、糖尿病の改善、コレステロールの減少といった効果が得られるのです。

効果的に歩くためには?

この有酸素運動の代表は「歩く」こと。歩くだけ?と思ったあなた、歩くことを馬鹿にしてはいけません。体力を養うのに適切な運動の強度は、「ちょっときついかな」と思う程度、軽く息が切れるものの簡単な会話ができるくらい、1分間に110~130回くらいの脈拍数を維持する運動です。「歩く」ことはまさにうってつけの運動なのです。え?歩くのに息が切れたりしない?歌いながら歩ける?いえいえ、それは歩き方がなっていません。まっすぐ前を向いてできるだけ早く、ともすれば走り出してしまいそうなところを踏ん張って歩いてみてください。慣れない人にとっては、ジョギングよりきつく感じるかもしれません。早く歩くためには、胸を張り、顎を引き、しっかりと両腕を振らなければなりません。走り出してしまえば慣性力と太ももやふくらはぎなどの強いアウターマッスルに頼ることができますが、早く歩くためには強いインナーマッスルでしっかりと姿勢を整え、足だけでなく腹筋、背筋、胸筋、肩の周りなど全身の筋肉をスムーズに連動させなければならず、またそのための柔軟さも必要です。オリンピックにも競歩という競技がある通り、「歩く」のは易しいことでないのです。

また「歩く」は身体にかける負荷が比較的小さく、容易に繰り返すことができますので、怪我のリスクが低く誰でも安心して取り組めるということも知っておいてください。

しかし歩くだけではつまらない、という方もいらっしゃるでしょう。そういう方はジョギングや自転車、水泳などほかの運動にチャレンジしていただいてもいいのですが、筆者はあえてここで筋肉トレーニングをお勧めしたいと思います。筋肉トレーニングは運動のパフォーマンスを高めるだけでなく、鍛えられた筋肉によって関節にかかる負荷をやわらげ、外力に対抗する身体の防御力を向上させます。つまりは怪我を防止するのに役立ちます。

「歩く」ための代表的な筋肉

「歩く」という運動を行うために瞬間的に強い力を出す筋肉といえば大腿四頭筋(太ももの前側にある太い筋肉。膝を伸ばす主力であり、膝関節を守る)と、下腿三頭筋(いわゆるふくらはぎ。足首を伸ばしてつま先を蹴りだす)です。

*大腿四頭筋

大腿四頭筋を鍛えるためには膝の曲げ伸ばしを行います。典型的なトレーニングとしてスクワットがありますが、慣れない人にとっては負荷が大きく、無理をすると膝を痛めますので、ここでは椅子に座った膝の曲げ伸ばしをお勧めします。太ももに力が入っていることを感じられると思います。最初の10回ほどは楽に感じると思いますが、30回終わるころには太ももがだるくなっていることでしょう。5分ほどの運動ですが、効果的に鍛えることができます。

*下腿三頭筋

下腿三頭筋を鍛えるためには足首の曲げ伸ばしを行います。手すりや壁、イスにつかまりながらゆっくりと両足の踵を上げ、3~5秒保った後、ゆっくりと下ろします。20回ほどやってみましょう。

ポイントは「反動をつけずにゆっくりと」。勢いに頼らず、じっくりと行います。いずれも仕事や家事、通勤の合間などに手軽にできる運動です。機会を見つけて取り組んでみてください。

運動を通じて体力、すなわち健康の総合力を上げることで、様々な活動に精力的に取り組み成果を残せるようになります。しかし冒頭でもお話しした通り、運動にばかり注力していても体力は向上しません。食事や休養と両立することが重要です。このあたりのことは、また別の機会でお話ししましょう。

最後に、来るオリンピックを100%楽しむために筆者から一つの提案です。読者の皆様も好きなスポーツにチャレンジしてみませんか?すでに観戦チケットを手に入れている方も、テレビの前にいても心は競技場にあるという方も、スポーツの楽しさと苦しさを知ればより一層楽しめることと思います。

「健康さんぽ86号」

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