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健康コラム君津健康センターの医師・スタッフから、
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医師 長尾 望

こんにちは。新年度となり、今この記事をお読み下さっている中には、新しく就職された方々や、一旦定年を迎えた後改めて再雇用の契約で働き始めたベテランさん等、様々な世代の方がいらっしゃることと思います。会社では通常年に1回程度のペースで定期健康診断(健診)を受けますが、健診と検診の違いはご存じでしょうか?

健診=健康診断は、健康増進のため広く健康状態を確認するために実施するものです。それに対し検診(がん検診など)は、ある特定の疾患を想定して、その疾患に罹患していないかをなるべく早期に確認するために検査するものです(スクリーニング)。なかでもがん検診の目的は、がんを早期発見して適切な治療を行うことで、がんによる死亡を減らすことです。厚生労働省では、がん検診の受診率を50%以上とすることを目標にあげて、がん検診を推進しています。

✽ あなたはがん検診を受けていますか?

<がんについて>

国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」によると、日本人が一生のうちにがんと診断される確率は(2018年のデータに基づく) 男性65.0%、女性50.2%です。また、日本人ががんで死亡する確率は(2019年のデータに基づく)男性26.7%、女性17.8%と報告されています。

●死因の構成割合(2020年)

●主な死因別にみた死亡率(人口10万対)の年次推移

注:1)平成6年までの「心疾患(高血圧症を除く)」は、「心疾患」である。2)平成6・7年の「心疾患(高血圧性を除く)」の低下は、死亡診断書(死体検案書)(平成7年1月施行)において「死亡の原因欄には、疾患の終末期の状態としての心不全、呼吸不全等は書かないでください」という注意書きの 施行前からの周知の影響によるものと考えられる。3)平成7年の「脳血管疾患」の上昇の主な要因は、ICD-10(2003年版)(平成7年1月適用)による原死因選択ルールの明確化によるものと考えられる。4)平成29年の「肺炎」の低下の主な要因は、ICD-10(2013年版)(平成29年1月適用)による原死因選択ルールの明確化によるものと考えられる。【図1.2】 2020年人口動態統計月報年計(概数)の概況(厚労省)より

<がんとは?>

がんのことを悪性腫瘍とも 言います。腫瘍とは、体内で細胞が固まり状になっているものを指します。本来正常な細胞は身体全体や周囲の状態に応じて増えたり増えなかったりします。しかしその細胞分裂の中で遺伝子が傷ついた時、それで出来た異常な細胞が無秩序に増え続けて塊を形成したものが腫瘍です。悪性腫瘍とはこの腫瘍のうち、無秩序に周囲の組織に食い込みながら広がったり(浸潤)、身体の離れた場所に飛び火して新しい塊を形成する(転移)もののことを言います。一方、浸潤や転移をすることなく周りの組織を圧迫しながらゆっくり大きくなる(圧排)腫瘍を良性腫瘍と言い、良性腫瘍は通常は手術等で完全に切除できれば基本的には再発はしません。

<がんの原因と予防>

がんは、様々な要因によって発症していると考えられており、その中には予防できるものも多く含まれます。日本人では、男性のがんの53.3%、女性のがんの27.8%は、下表にあげた生活習慣や感染が原因と考えられています。そのうち、大きな原因は、喫煙(男性:約29.7%、女性:約5.0%)と感染(男性:約22.8%、女性:約17.5%)で、その他のものは比較的小さいと報告されています。

<がんの5年生存率>

あるがんと診断され治療をした場合に、どのくらいの人が助かるかを示す指標の一つです。がんと診断された人のうち、そこから5年後に生存している人の割合が、日本人全体で5年後に生存している人の割合に比べてどのくらい低いかで表します。下のグラフは、100%に近いほど治療で生命を助けられるがん、0%に近いほど治療で生命を助けにくいがんであることを意味します。

 

<がん検診のメリットとデメリット>

メリット:

最大のメリットは、がんの早期発見・早期治療により生命を助けられること。症状が出現してからの受診・精査で見つかった時にはすでにがんが進行していることが多くあります。がん検診では症状のない段階の人が対象なので、早期に発見し治療につなぐことが出来ます。

デメリット:

がん検診で100%見つけられる訳ではなく、がんを検出できる限界はあります。そのため「がん検診では異常なかったが、その後に気になる症状が現れた」という場合には、必ず改めて受診をしましょう。「がん検診をしたから大丈夫」と受診を先延ばしにしていると、その間にがんが進行していることがあります。

高年齢あるいは進行がゆっくりしたがんに対して精度の高い検査を実施した場合、症状がなく死亡原因とならないがんを発見することがあります。この場合、検診結果と生命予後が必ずしも関係せず、結果として不必要な検査・治療をもたらす「過剰診断」となってしまうことがあります。

検査も100%安全とは言えず、胃内視鏡(胃カメラ)で胃に穴が空いてしまう(穿孔)、レントゲン検査・CT検査による放射線被ばくの影響はゼロではありません。ただし、現在は機器の改善や検査者の技術向上などでそれらの影響は最小限になるよう工夫されてきています。

<推奨されるがん検診とそのポイント>

胃がん検診:バリウムの影を診る胃がん検診ですが、異常があり精査となった場合は改めて上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)を受ける必要があります。異常のあった粘膜やポリープの細胞を調べる生検は内視鏡でないと行えません。要精査の場合は速やかに消化器内科を受診し、内視鏡検査をしてもらいましょう。

子宮頸がん検診:医師等による子宮頸部の細胞採取の場合と、自己採取の場合があります。婦人科領域は受診の心理的ハードルが高く感じていらっしゃる方が多いですが、しっかりと目視確認した上で医師が子宮頸部から間違いなく採取する方が検査の精度は高くなります。また、産婦人科クリニックなどでの検診受診の場合は、同時に経膣エコー検査も併用して下さるところもあるので、不安のある方はしっかり検査を受けましょう。

肺がん検診:肺がんが胸部レントゲンで指摘される場合は、「円形陰影」「結節影」等の所見で指摘されるケースが多いように思います。その他、胸水がある場合や、胸腔内の他の組織(気管支等)ががんに引き込まれて位置がずれている場合などがあります。異常のあるものについては、前回の写真からの変化を確認することも非常に重要です。できれば同じ施設で検診を継続して受け、前のデータと比較してみましょう。

乳がん検診:マンモグラフィ検査とエコー検査があります。40歳未満などではマンモグラフィ検査だと正常の乳腺がしっかり写りすぎてしまうことがあるので、若い年代の方はエコー検査のほうが適切かもしれません。また40歳以上でも自治体のがん検診のクーポンは2年に1回となっている場合もあります。そのような時は、マンモグラフィ検査とエコー検査を1年ごとに交互に受けていくと良いでしょう。乳がんについては家族歴も重要です。肉親で罹患した方がいらっしゃる場合は積極的に検査を受けましょう。

大腸がん検診:消化管での出血の有無を便潜血で発見する検査です。痔が持病である方は常々便潜血陽性となるかもしれませんが、「痔だけかと思っていたが、大腸がんが隠れていた」という場合もあります。異常があった場合は下部消化管内視鏡検査を受けましょう。

前立腺がん検診:採血でスクリーニングの検査が可能です。血液中のPSA(腫瘍マーカーの一種)の数値が基準を超えて高い場合は前立腺がんを疑います。

✽ご自身の健康・早期発見のためにがん検診を!

現在も新型コロナウイルス感染症の流行が続いています。そういった中で「感染するリスクを考えると、なんとなく病院に行くのがためらわれてしまう」というお声をよく耳にします。たしかに発熱外来をやっている病院もありますし、そもそも大勢の人が集まる場所がハイリスクという傾向はあります。しかしながら身体のことを放っておきっぱなしになることはとても心配です。

上記の検診の中身は日頃、会社で実施することになっている健康診断(法的に実施が課せられています)の際に、オプションとして1日の検査の流れに組み込んで検査を受けることが可能です。せっかくの機会ですので、ご自身の健康の確認・早期発見により早期治療につなげていくために、ぜひがん検診も受けられてはいかがでしょうか。

そして検診・健診で異常を指摘された時には、詳しい検査そのものの苦痛を怖がったり、重病であると診断がつくのが恐くて受診しない、ということがないようにしましょう。検査は、あくまで発見までです。きちんとした治療を行うことでようやく検査は役目を果たすことになりますので、検査結果がお手元に戻った際には早めに内容を確認し、その内容に応じた対処を必ず取りましょう。

「健康さんぽ94号」

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