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四十肩・五十肩をはじめとする肩の疾患について

医師 長尾 望

皆様こんにちは。暑かった夏も終わり、日一日と陽が短くなって気温も下がってまいりました。気温が下がってくると、腰痛や古い怪我の後の痛み等、整形外科的な訴えも多くなっているかもしれません。そこで今回は寒さとは直接の関わりはありませんが、四十肩・五十肩を初めとする肩の疾患についてお話ししたいと思います。

複雑な動きができる肩関節

元々肩関節は股関節と同じ球関節であり、非常に複雑な動き(屈曲/伸展、外転/内転、外旋/内旋)が出来る自由度の高い関節です

構造が似ていてどちらも複雑な動きが可能ですが、強度については股関節に比べて肩関節は弱いようです。股関節の脱臼は乳児期に指摘されることがありますが(足を伸ばした状態で抱っこを長時間されることが習慣になっているような場合等)、成人になってからは非常に強い外力が加わった外傷で発生します。

ところが肩関節は他のどの部位よりも脱臼が発生しやすく、転倒して手をついた際や、アメフト・柔道等のスポーツでぶつかった時等にしばしば発生します。一度脱臼したことで肩関節が外れやすくなり、日常のちょっとした動作で脱臼してしまうことを繰り返す場合もあります。理由としては、骨がはまるくぼみ(関節窩)が肩関節の方が浅い、関節を支えている筋肉や靭帯が股関節を支える足の筋肉よりは弱いこと等があげられます。このように動きの種類も動く範囲も広い一方で構造としては  弱いと言える肩関節ですので、五十肩をはじめとする様々な疾患が発生します。

四十肩・五十肩(肩関節周囲炎)について

<症状> 髪の毛を頭の後ろで結ぶ動作(水平伸展)や、腰のところで帯や紐を結ぶような動作(内旋)等をすると痛みが発生します。また、夜間等に寝返りで傷めた側の肩が下になった時や腕の位置/肩の角度で痛みが発生します。

<原因> 40~50歳代以降に多く見られます。関節を構成する骨・軟骨・靱帯・腱等の老化によって肩関節周囲の組織に炎症が起きることが主な原因と考えられています(他の鑑別がつく疾患として診断できない場合を五十肩と呼ぶ、と考えても良いでしょう)。肩関節周りの肩峰下滑液包や関節を包む関節包が癒着してしまうと、拘縮といってますます肩が動かせない状態となります。

<診断> 押すと痛い(圧痛)場所や肩関節の動きの状態をみて診断します。滑液包や関節包がスムーズに動かないので肩関節の動く範囲が狭まります。また、レントゲン写真、MRI検査等により、肩腱板断裂や石灰沈着性腱板炎等の他の疾患でないかを確認して治療法を決めていきます。

<治療> 発症から治癒までに半年~1年かかる場合があるようです。自然に治る場合もありますが、放置すると治る過程で組織の癒着が起こり、肩関節を動かせる範囲が狭まってしまいます(拘縮)。そのため、発症後すぐの痛みが強い急性期は三角巾やアームスリングで腕の重量が肩関節の負担にならないようにし、消炎鎮痛剤の内服やブロック注射で痛みを抑えたり、炎症を抑える目的で一時的にステロイドの注射をしたりします。急性期を過ぎたら拘縮しないためにホットパックや入浴等の温熱療法を加えた上で肩関節の運動を進めていきます。

運動のやり方としては上半身をかがめて腕をぶらんと下げて、外旋/内旋するなどがあります。早期からリハビリ科に相談するのも良いでしょう。

肩腱板断裂について

<症状> 40歳以上の男性(男性62%、女性38%)、右肩(右68%、左32%)に多く見られるようです。発症年齢のピークは60歳代となっています。肩の運動時の痛み・夜間の痛み・動かしにくさを訴えますが、夜間痛で睡眠がとれないことが受診する一番の理由です。運動時の痛みはあるものの、拘縮した五十肩のひとに比べて多くの肩腱板断裂の患者さんでは関節の動きが固くなっておらず、力が入りにくくても肩の挙上は可能です。そして挙上するときには肩の前上面でジョリジョリという音(軋轢(あつれき)音)がするという訴えもあります。

<原因> 肩関節の解剖学的位置関係(腱板が骨と骨に挟まれている)や、腱板の老化が原因と考えられており、中年以降の病気といえます。明らかな外傷によるのは半分程度で、残りははっきりとした原因がなく、日常の動作で断裂が起きます。男性の右肩に多い傾向が見られるので肩の使いすぎが原因ではないかと考えられています。

※若年層では、野球等の投球肩で不全断裂が発生することがありますが、不全断裂であれば症状が軽い、治りやすいとは限らないようです。

<診断> 肩の挙上が出来るか否か、その際肩の前上面で軋轢音があるか否か、拘縮があるか否か、棘下筋(きょくかきん)萎縮があるか否かを診察で確認します。軋轢音や棘下筋萎縮があれば、腱板断裂の可能性を考えます。レントゲン写真の所見では、肩峰と上腕骨頭の間が狭くなります。MRI検査では上方の腱板部に断裂の所見(白く映る高信号の領域)がみられます。

<治療>

保存療法: 急性の外傷により発生した場合は、三角巾などを用いて1~2週間安静にします。安静により断裂部が治癒することはありませんが、保存療法で症状が軽快するケースは多いです。症状が軽快してきた後は注射療法と運動療法が行なわれます。注射療法では、肩関節周囲炎を併発して夜間の痛みがある場合にステロイドと局所麻酔剤を肩峰下滑液包内に注射します。夜間の痛みが落ち着いたらヒアルロン酸の注射に変えます。ステロイドは長期使用すると組織が弱くなるためです。腱板のすべてが断裂することは少ないので、残っている腱板の機能を強化する腱板訓練もリハビリとして行います。

手術療法: 保存療法で肩関節の痛みと運動障害が治らない時は手術を治療方法として選択します。手術には通常の手術(直視下手術)と関節鏡を使用する手術(関節鏡視下手術)があります。関節鏡視下手術の方が傷も小さく身体への負担が小さい(手術後の痛みも少ない)ので普及してきています。しかし断裂が大きい症例では縫合が難しくなるため、直視下手術を選択する方が安全性が高いと言えるでしょう。ただし、どちらの手術を実施しても、術後は4週間程度の固定と2~3ヵ月間の機能訓練が必要となります。

③ 石灰沈着腱板炎(石灰性腱炎)について

<症状> 夜間に突然非常に強い肩関節の痛みが発生する疾患です。眠れないほどの痛みを伴い、肩関節を動かせなくなります。発症から1~4週間の間に強い症状がある急性型、中等度の症状が1~6ヵ月程度続く亜急性型、6ヵ月以上運動時の痛みなどが目立つ慢性型があります。

<原因> 中高年の女性に多く見られるようです。腱板にリン酸カルシウム結晶が沈着して(=石灰化)急性の炎症が生じ、その炎症によって肩の痛みや運動制限が起こります。この石灰は、当初は濃い牛乳くらいの状態で、時間経過により歯磨き粉くらい、そして石膏(せっこう)程の硬さまで変化します。石灰が蓄積して膨らんでくると更に痛みは増します。そして、腱板から滑液包内に漏れ出る時に激痛を伴います。

※ヒトは骨に必要なカルシウム量を維持するために、カルシウムを腸から吸収し尿から排泄してバランスを取っています。長年のなかで尿による排泄が出来ずに残ったカルシウムは、年齢が上がるほど血管内膜や関節内の腱・靭帯に蓄積してしまいます。蓄積しているところに何らかの理由で異物反応(身体にとって不要なものを排除しようとする反応)が起こると身体は免疫力でカルシウムを攻撃するので、炎症による激痛が発生します。

<診断> 押すと痛い(圧痛)場所や肩関節の動きの状態をみて診断します。肩関節の周りの肩峰下滑液包や関節を包む関節包の炎症であるいわゆる四十肩・五十肩の症状とよく似ており、鑑別には注意が必要です。レントゲン写真では腱板部分に石灰沈着の所見を確認する事によって診断します。石灰沈着の位置や大きさを調べるためにCT検査や超音波検査などを実施する場合も  あります。肩腱板断裂の合併の検査としては、MRI検査を利用します。

<予防と治療> 急性例では激痛を早く取るために、肩腱板に沈着した石灰を破り、牛乳のような石灰を吸引する方法を実施します。基本的には三角巾・アームスリングなどで肩に掛かる負担を軽減して、消炎鎮痛剤の内服や、ステロイドと局所麻酔剤の滑液包内注射等も実施できます。ほとんどの場合保存療法で軽快しますが、亜急性型、慢性型では、石灰沈着が石膏状に固くなり、時々強い痛みが再発することもあります。痛みがとれたら、ホットパック・入浴等の温熱療法や運動療法などのリハビリを開始して拘縮予防や筋肉の強化に努めることで、その後の生活動作のしやすさを維持するようにしましょう。

今回は肩のお話をさせていただきましたが、肩に限らず長引く不調や程度の強い症状は、思わぬ病気が隠れている場合もあります。気になった時は先送りをせず、早めの受診を心がけましょう。

「健康さんぽ96号」

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