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夏場に多い食中毒大図鑑

医師 小倉 康平

夏です!海で泳いだり、山に登ったり、楽しいこと盛りだくさんの季節となりました。読者の皆様は今年の夏をどのように過ごしますでしょうか?楽しいことの多いこの季節ですが、健康上の課題が多い季節でもありますね。熱中症が代表的ですが、忘れてはならないのが食あたりです。私たち人間が夏を謳歌しているとき、様々なバイ菌たちもまた夏を謳歌しているのです。

5月から9月がピーク

「食中毒」という言葉はとても広い意味で使われています。大辞林では「飲食物を摂取することによって急性に起こる中毒ないし感染症」と定義されています。原因が飲食物である、という点は変わりませんが、毒キノコやフグなどの「自然毒」、メチルアルコールなどの「化学物質」、そしてサルモネラ菌やノロウイルスなどの「病原微生物」など、様々な食中毒があるのです。夏場に特に注意すべきはやはり「病原微生物」、中でも〇〇菌と名の付く「細菌」が原因となる「細菌性食中毒」です。平成28年の食中毒の発生状況をお示ししましょう(図)。蒸し暑くなる5月から残暑の残る9月までにピークがあるのをご覧いただけるかと思います。

付けない! 増やさない! やっつける!

まずは食中毒の予防法を確認しましょう。食中毒予防の原則は3つ「付けない」、「増やさない」、「やっつける」ですが、今回は日常に則した視点から、3つのステップに分けて見てみましょう。

STEP1 最初のステップは「買い物&保存」

生鮮食品であれば、どんなにキレイに洗っても、表面の菌を0(ゼロ)にすることはできません。売られている時点で、すでにある程度の菌がいるのです。大事なことは、「ある程度」を「たくさん」にしないこと。できるだけ新鮮な食材を買い、速やかに冷蔵庫まで持って帰りましょう。夏場は特に、買い物からの帰り道や、室内や自動車内で常温で置いているときに菌が繁殖しやすくなります。寄り道せず帰り、すぐに冷蔵庫に入れることが大切です。

また、お肉やお魚など汁気が出る食材では、汁気が漏れて他の食材を汚染することのないよう、ビニール袋などを利用しましょう。また、夏場は冷蔵庫の中も温度が上がりやすくなります。冷蔵庫に物を詰めすぎないようにし、庫内を10℃以下(冷凍庫は-15℃以下)に維持するよう出力を調整してください。

STEP2 次のステップは「調理」

調理で大切なポイントは二点あります。まず、①野菜や加工品など加熱せずに食べる食品と、肉や魚など加熱して食べる食品を一緒に扱わないこと。肉や魚についている細菌が野菜に移る経路は主に包丁やまな板などの調理器具と調理する人の手です。よって、調理器具や手をこまめに洗いましょう。くれぐれも肉や魚に触れた手や器具で他の物に触れないようにしてください。タオルやシンク、冷蔵庫の取っ手などにも要注意です。
そして、②十分に加熱調理すること。中心部の温度が75℃で1分間以上をめやすに十分に加熱しましょう。表面が焼けていても、中心部が生焼けでは意味がありませんのでご注意を。中まで十分に火が通っているか確認してから食べましょう。下ごしらえに電子レンジを使ったり、オーブンで焼き上げるなどの方法も有効です。調理の幅も広がりますね!

STEP3 最後のステップは「食事と後片付け」

せっかく調理したものは、すぐに食べるのが原則です。菌も増えませんし、何より出来立てが一番美味しいですものね!清潔な食器を使うことも大切ですよ。すぐに食べない物や作り置きしておくものは、できるだけ早く清潔な容器で冷蔵庫保管しましょう。そして、食べるときは改めて十分に加熱してください。
また、いくら冷蔵庫や冷凍庫で保管していても、時間が経ちすぎた物は思い切って捨ててください。使い切れる食材だけ買う、食べきれる量だけ作る。「もったいない」ではなく「無駄がない」を目指しましょう。

敵を知る!

さて、後半は夏場によく見られる細菌たちをご紹介します!

カンピロバクター

一年中見られますが、9月に発生のピークがあります。鶏肉、豚肉、およびそれらの加工品にいます。時に38℃を超える高い熱で発症し、腹痛、嘔吐、下痢が出ます。便に血が混じることもあります。平成28年の食中毒件数が339件、患者数3272人と食中毒の原因菌として最もよく見られる菌です。鶏肉は十分に加熱してから食べるようにしてください。

黄色ブドウ球菌

実は、黄色ブドウ球菌はヒトの喉や鼻など身近に存在する菌です。顕微鏡で見るとブドウの房のように集まっているためブドウ球菌と名付けられました。しかし、手に付いていたブドウ球菌がおにぎりや寿司、菓子などに付いて数が増えると毒素を産生します。その毒素が腹痛や嘔吐、下痢を引き起こすのです。手で直接触れた食品に注意が必要です。手作りのものはできるだけ早く食べるようにしてください。

ウェルシュ菌

春~梅雨時に発生しやすい菌で、お弁当や飲食店、寮や会社の食堂などの給食施設で発生することが多く、カフェテリア菌などと呼ばれることもあります。原因となっている料理はカレー、シチュー、スープなど前日に大量に加熱調理され、長時間室温で保管された食品などがあげられます。家庭でも作り置きする料理は感染のリスクがありますので、冷蔵庫で保存し、できるだけ早く食べ切りましょう。症状は水様下痢と腹痛が主で、嘔吐や発熱は見られません。

サルモネラ

卵かけごはんなど生卵や、半熟卵のように加熱が不十分な卵から感染します。サルモネラは主に卵の表面についている菌です。最近の卵はパックされる前に洗浄・消毒されているため市販の卵はほとんど汚染されていませんが、自宅で飼っている鶏の卵などには注意が必要です。8時間~2日の潜伏期と後に嘔吐で始まり、腹痛、水様下痢、高熱など比較的重い症状が4~7日間続きます。小児や高齢者、免疫を抑える薬を飲んでいる方などでは抗生剤で治療する必要があります。

腸管出血性大腸菌

7月ごろに集中して起こりますが、春や冬にも見られます。ハンバーグなど加熱不十分な牛肉を介して感染し、3~5日の潜伏期の後、腹痛と血便が見られます。さらに5~10日後に腎不全、貧血、出血しやすくなるなど溶血性尿毒症症候群と呼ばれる合併症を起こすことがあり、亡くなる可能性もあります。平成28年では腸管出血性大腸菌による10名の死亡が報告されています。早期発見と合併症

予防が重要です。疑った場合はできるだけ早く医療機関を受診してください。

行楽も仕事も自分自身の健康から。食べ物にも十分注意して、楽しい夏を過ごしてくださいね!

「健康さんぽ75号」

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