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新しく導入される「ストレスチェック制度」について

医師 山瀧 一

ストレスチェック制度導入の背景

平成26年に労働安全衛生法が改正されました。主な改正点の一つとして注目されているものが、今回取り上げるストレスチェック制度です。

メンタルヘルスの問題は国内でも、また職場でも大きな問題であり続けています【図1】。自殺者数は平成10年以降平成23年まで3万人を超える状況が続きました。平成26年の自殺者数は25,427名で、その中で勤務問題に原因・動機があるものが2,227名でした。また現役世代の死因として15歳から39歳までの第一位、40歳から49歳までの第二位と、重い位置を占めています(平成26年、警視庁調べ、及び厚労省人口動態統計)。更に、業務が理由の(労災と認定された)精神障害も増加の一途をたどっています。

このような中、職場でもこころの健康を守るための取り組みの重要性が叫ばれています。厚労省では、四つのケア(自身のストレスに気づき適切に対処する『セルフケア』、職場環境を改善するとともに上司・同僚が不調に気づき支援につなげる『ラインによるケア』、『事業場内の産業保健スタッフ等によるケア』、『事業場外資源によるケア』)を打ち出していますが、実際にメンタルヘルス対策に取り組んでいる事業場は60.7%であり、特に中小企業での取り組みがまだ不十分という現状にあります(平成25年、厚労省)。そのため、職場での取り組みを強化することを意図して、今回の法改正によりストレスチェック制度の導入が行われました。

ストレスチェック制度の目的

ストレスチェック制度は、職場でのこころの健康問題の一次予防を主な目的としています。一次予防とは、健康問題が発生することそのものを防ぐことです。二次予防は早期発見と早期治療、三次予防は再発予防とリハビリテーションと位置付けられています。こころの健康問題に当てはめると、一次予防は「自身がストレスに気づき適切に対処する」「職場を改善し快適に働けるようにする」取り組みにあたります。一方、二次予防・三次予防はそれぞれ「こころの健康問題を早期に医療につなげる」「しっかり治療を続けるとともに、復職を支援する」取り組みと言えます。

現在の研究では、「うつ病について質問票などで検査を行った場合、その後の専門家による支援があれば病気の経過を改善するなどの効果が見込めるが、支援がない場合は効果がない」「自殺に関しては、質問票などの検査が有益か有害かを見極める根拠は不十分」(米国予防医学作業部会ほか)とされています。そのため、ストレスチェック制度も、不調者を見つけ出し早期に治療につなげると理解するより、「個人個人が結果を見て自身のストレスに気づき適切な対処を考える材料とする」「職場毎の集計結果を見て職場改善の材料とする」ことに重点を置くのが正しいと言えます。とはいえ、ストレスチェックを実施すると、一部の受検者は「高ストレス者」と判定されます。したがって高ストレスの状態にある労働者への対処も必要となってきます。

ストレスチェック制度の概要

ストレスチェック制度では、まず事業場がこころの健康づくりについて方針を示します。ストレスチェックの実施についても、衛生委員会で調査審議の上で方針から具体的な方法までを決定し、また重要事項を労働者に通知します。ストレスチェック制度の実施に当たっては【表1】にあるように様々な役割やルールを定め、周知しておくことも必要となります。

【表1】

制度担当者 事業場においてストレスチェック制度の運用や管理を担当します。個人情報を扱わないのであれば、人事権のある者(人事部長など)でも担当できます。
実施者 ストレスチェックを実施し、高ストレス者の判定や、「医師による面接指導」の要否を判断します。医師・保健師・(一定の要件下)看護師・精神保健福祉士が実施者となることができます。実施者を外部機関と産業医など複数名で担当することも可能です(共同実施者)。外部委託可、法令により守秘義務が課せられています。
実施事務従事者 結果の入力や取りまとめなど、ストレスチェック制度に関連する事務を担当します。外部委託可、個人情報を取り扱うため、法令により守秘義務が課せられています。
面接指導を担当する医師 ストレスチェックの結果により「医師による面接指導が必要」と判断された労働者に対して、面接指導を実施します。国の指針では産業医が担当することが望ましいとしています。それ以外の外部の医師に委託する場合も、産業医との連携が必要です。

ストレスチェックの対象者は、一般定期健康診断の対象者と同様です。また、調査は質問票で行います。多くの場合、「職業性ストレス簡易調査票」という57問から成る質問票が使用されると思われますが、国が定めた3項目(「職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目」「当該労働者の心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目」「職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目」)について調査するもので科学的根拠があれば、他の質問票でも構いません。

ストレスチェックの実施義務は事業者に課せられていますが、労働者には受検の義務はありません。この点は健康診断とは大きく異なるところです。ただし、事業者は受検していない労働者に対して、実施者から未受検者の情報を入手した上で受検の勧奨を行うことができます。

ストレスチェックの結果の評価をどのように行うか(心身の自覚症状が高いと判断する基準、職場での心理的負担の原因の指標・職場での支援の指標を判断する基準など)は事前に衛生委員会で定めます。この基準に基づいて、実施者は高ストレス者に該当するか否かの判定と、医師による面接指導の対象か否かの判断を行います。結果は【図2】のような様式で個々人に通知されます。この結果は、労働者本人が実際に結果を確認した上で同意しない限り、事業者には通知されません。この点も健康診断と大きく異なるところです。

ストレスチェック結果の利用と留意点

医師による面接指導が必要と判定された労働者に対しては、実施者から面接指導を奨める連絡があります。労働者は、事業者に申し出て面接指導を受けます。このとき、労働者はストレスチェックの結果を事業者に提出することになります(場合によっては事業者が実施者に面接指導要否の確認を行うという方法もあります)。提出された結果は、事業者側でプライバシーに配慮し責任を持って5年間保存しなければなりません。なお、事業者への結果提出に同意できない場合は、健康相談として産業医等と面談を行います。

ストレスチェックでは、部署など集団での分析結果も示されます。例えば、仕事の量が非常に多く裁量度が低い職場、上司や同僚からの支援が少ない職場ではストレスの指標が高くなると考えられます。このような集団的な分析結果は、職場環境の改善のために重要な資料となります。

ストレスチェックは、個人のストレス状況などを取り扱うため、個人情報・プライバシーの保護に十二分な注意が必要です。先述の通り、人事権を持つ者はストレスチェックに関する個人情報を取り扱うことはできません。労働者にストレスチェックの受検を勧奨することはできますが、受検しないことを理由とした不利益取扱い(例:懲戒)は禁じられています。また、ストレスチェックの結果、医師による面接指導を申し出たこと、逆に申し出ないことによる不利益取扱いも禁じられています。ストレスチェック制度の運用にあたっては、このようなルールを確立し、一人一人が安心して回答できる環境づくりが何よりも必要です。

君津健康センターの取組み

弊センターでは、ストレスチェック制度法制化前後から、関連するサービスの提供について検討を続けて参りました。その結果、ストレスチェックの実施については、十分な実績と支援体制を持つ外部の提携機関と事業場様との契約で実施頂くこととしました。弊センターと産業医契約を結んでいる事業場様には、産業医がストレスチェックの(共同)実施者として、ストレスチェック制度の立ち上げや運用についても専門的な観点から助言をして参ります。長期的には集団的な分析結果を活用した職場環境の改善のお手伝いもできればと考えております。このほか、お客様からのご相談にも可能な限りお応えしたく存じますので、弊センターまでお気軽にお問合せください。

「健康さんぽ68号」

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