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汗が気になる季節を快適に過ごすために

医師 長尾 望

からだの中の水分量は年齢・性別によって差があり、子供では体重の約70%、成人男性では約60%、高齢者では約50%・・・と年齢を重ねるにつれ減少傾向となっていきます。例えば体重が60㎏の人では60%(36kg)が水分で、その内訳は体重に対して、血漿(血管の中の水分)に5%(3kg)、組織に15%(9kg)、残り40%(24kg)は細胞内に分布しています。からだの中の水分の役割は、発汗によって体温調節を図ったり(汗が蒸発する時に熱量を奪っていきます)、酸素や栄養分や老廃物を運んだりして、からだの状態を維持(体液の濃度、浸透圧の調整)します。

俗にいう「良い汗」「悪い汗」とは、この体温維持に効果的か否かで論じられているようです。じわっと体表面を湿潤にする程度の汗の場合、蒸発することにより少量で体温を下げる働きを得られます(良い汗)。一方、激しいスポーツなどで一気にドバっと汗をかいても、体表面からの蒸発量はさして変わりません(その日の湿度などによる)。つまり多量に水分・塩分を喪失するものの、そのすべてを体温低下のために利用しているとは言えない汗なのです(悪い汗)。

水分は1日のなかで主に食事や飲み物で補充され、尿や便、呼気や汗と一緒に排出されます。そのin/outのバランスが保てなくなると、体調は異常を来すようになります。

これからの季節で水分にまつわる最重要課題は熱中症です。真夏の製造業・建設業では熱中症がしばしば発生します。熱中症は下記の図2のメカニズムで発生していると考えられます。

サウナに入ったり運動したりした時に体重が減少したことを「痩せた」と思っている方が時々いらっしゃいますが、その実態はあくまで水分が失われただけです。体脂肪などを瞬間的に減らす効果はありません。その体重減少幅によっては、かなり熱中症すれすれとなりますので、サウナに入る前後、夏場に汗をたくさんかくような運動の前後は必ずコップ1杯の水=約200mlずつを飲むように習慣づけましょう。

またこれからプール・海へ遊びに行く機会が増える季節となりますが、近年は気温が36℃を超える日がとても増えています。その時には当然、屋外のプールでは水温も非常に高くなり、気温と大差なくなっているでしょう。日頃入浴するのが40℃程度の湯温であることを考えると、プールと言えどお風呂に近い温度になっていることになります。そして、水の中にいると汗をかいた自覚が持ちにくく、気がついた時には脱水が進んで熱中症になるというケースも起こりますので、じゅうぶんな注意が必要です。加えて、熱中症にならなくとも、汗で体内の水分が大幅に失われると血液が濃くどろどろした状態になります(多血症)。そうすると、心筋梗塞や脳卒中などの “血管が詰まる” 病気を起こしやすくなりますので、その観点でも発汗する前後の水分摂取は重要です。

暑い夏はビールが美味しい季節ですが、アルコールは尿の量を増やし(利尿作用)、体内の水分排出を促します。ですので汗で失われた水分をお酒で補給しようと考えてはいけません。一旦吸収した水分も、それ以上の水分とともに後に尿で失われてしまうことにつながります。また、お茶やコーヒーに含まれるカフェインで排尿が進みやすい方は、麦茶・ルイボス茶などノンカフェインの飲料にしましょう。

そして大量の発汗がある場合は水だけでなく、塩分を含む飲料が望ましいですが、スポーツ飲料や清涼飲料水では塩分が少なくかつ糖分を多量に(500mlのペットボトル1本中、30g以上)含むものもあるので、飲みすぎによる糖分の過剰摂取に注意しましょう。ちなみに望ましい塩分量としては1000mlの水に対し、塩1~2gです。糖尿病が持病の方や、健診で尿糖の指摘を受けたことがある方は、水・麦茶と梅干しまたは吸い物・味噌汁などを昼食時に補給すると良いでしょう。夕方 帰宅後の体重が朝より減少している場合は、その減少量の7~8割以上は水分を取るよう心がけましょう。

人間には、全身に分布してさらさらした汗を出す「エクリン腺」と、限られた位置(脇の下、下腹部~股間など)の毛根部に開口している粘つきのある汗を出す「アポクリン腺」があります。どちらも本来汗のみでは臭いがありませんが、皮膚表面の細菌に分解された時に臭いが発生します。とくにアポクリン腺から出る汗には脂質やたんぱく質が多めに含まれ、臭いの元となりやすい成分です。ですので汗の臭いが気になる方は、こまめにタオルなどで拭き取り清潔にするよう心がけると良いでしょう。さらにあまり気にする人が少ない首や背中の汗も皮脂を多く含みますので、発汗時は出来れば背中なども拭いましょう。

 

全身で汗を多くかく場合は全身性多汗症、わきの下(腋窩)のみ、手のひらのみ、顔のみ、という場合は局所性多汗症と呼ばれます。眠っている時は日中と異なり汗が出ないようです。局所的多汗症は思春期などに発症することもあり、精神的な負担に感じる方も多いでしょう。

汗は体温を低下させる以外に、手のひらが程よく湿れば滑り止めにもなるのですが、多汗症では汗が多すぎてかえって滑りやすい、書字の際に紙が湿ってよれよれになる、など生活面に支障が出ます。

多汗症の治療には、副交感神経の働きを妨げる抗コリン薬を塗布する、腋窩にボツリヌス毒素の皮下注射をする場合もあります。全身性多汗症では抗コリン薬内服をしますが、抗コリン薬は前立腺肥大・緑内障などを悪化させるので、それらの持病がある方には投与できません。

そしてこの時期、市販の制汗剤を使用する方は多いと思いますので、種類と特徴を整理してみましょう。

これらに加えて、殺菌成分であるイソプロピルメチルフェノール、塩化ベンザルコニウムを含むものもあります。いずれにしても、汗を落とした清潔な肌に塗布・散布して効果が得られるものであることに注意が必要です。汗をかいた後であれば、アルコール含有のウエットティッシュなどで拭ってから使用する方がよいと思われます。さらに、肌についた時のスーッとする感触のためにメントールを含むものも多いです。

また、スプレー式で肌に散布するものは、誤って散布時に吸い込まないようにしましょう。ちなみに化粧品・整髪料などでも吸い込むと肺炎を起こす場合もあるので、スプレー類を散布する瞬間は息を止め、換気のよいところで行うようにしましょう。

この夏は久しぶりに夏を楽しめる環境が戻ってきますように。とはいえ、混みあった場所や人との距離の近い場所でのマスク着用や、手洗いの励行など、感染対策も忘れずに!

「健康さんぽ99号」

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