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狭心症について

医師 桝元 武

最近、誰もが知っている高貴な方が心臓のパイパス手術を受けて無事成功しました。今回はこれに関連して狭心症について説明したいと思います。

心臓について

人間が生命を維持するためには、人体の細胞に常に酸素と栄養分、水分が供給され、不要なものを運び去る必要があります。そのおおもとになっているのが血液の循環であり、その原動力は心臓です。心臓は休む事なく拡張と収縮を繰り返すポンプの働きをしています。性別・年齢・運動習慣などにより差はありますが、成人ではその人の握りこぶしくらいの大きさで、重さは200~300gくらいです。1分間で60回前後収縮と拡張を繰り返し、1日では10万回以上に達します。また、安静時に1分間に送り出す血液量は健康な成人で約5リットルにもなります。

心臓の中は4つの部屋に分かれており、左心房、左心室、右心房、右心室と呼ばれています。左右の心室と心房の間には、心室中隔、心房中隔という壁があり、左右それぞれの心室と心房の間は逆流防止の弁で区切られています。心臓の壁は心筋と呼ばれる特殊な筋肉でできており、この心筋が収縮・拡張する事によってポンプの役割を果たしています。なかでも心室を取り巻く心筋は動脈に血液を送り出すために厚くなっています。血液の流れは、全身から戻ってきたいわば使用済みの静脈血がまず右心房に集まってから右心室に行き、ここから肺に送られて酸素と二酸化炭素が交換され、酸素を多く含む血液になり、それが左心房から左心室に行き、ここから動脈血が強い血圧により全身に送りだされていく、というプロセスの繰り返しになっています。

冠動脈について

心臓は休みなく動き続けるために大量の酸素と栄養素を必要としています。このため、心筋に十分な血液を補給する冠動脈(かんどうみゃく)と呼ばれる動脈が張り巡らされています。この冠動脈のどこかで血流が細くなったり途絶えたりすると、心筋が機能低下や機能停止に陥り、狭心症や心筋梗塞といった心臓発作を引き起こします。多くの場合、冠動脈の動脈硬化などによって生じた狭窄(細くなること)が血流を障害することが原因となりますが、それほど動脈硬化がないにもかかわらず、冠動脈が痙攣(けいれん)性に収縮を起こして縮んでしまう「攣縮」するタイプもあります。また子供の病気である川崎病の後遺症や大動脈弁膜症が原因になることもあります。

狭心症の症状

普通は「労作性狭心症」といって労作時に起こります。つまり、急ぎ足で歩いたり、階段や坂道を登ったとき、またひどく興奮したときなどに胸の中央部が締め付けられるような圧迫感がでてきます。少し休むとおさまってしまうのが特徴です。痛みはしばしば左肩・腕や顎まで広がり、みぞおちに胃の痛みのように感じられることもあります。胃に障害を与える「アニサキス」という寄生虫がいますが、その発作と狭心症の発作が間違えられたという報告もあるほどです。息切れとして自覚されることもあります。痛みの場所はあまりはっきりしないのが一般的で、「この一点が痛い」と指で示せるような場合はあまり心配ないと思っていいでしょう。症状の持続時間は数十秒から数分です。もっと短い場合や一瞬であれば心配ないと思われます。

一方、「安静時狭心症」といって、同じような症状が労作と関係なく出現することがあります。これは「冠攣縮(かんれんしゅく)」、つまり冠動脈が痙攣様に収縮してしまい、動脈硬化で細くなったのと同じような狭窄を一時的に作り出すために起きる現象です。狭心症が起こる場所や程度によって、痛みの強さや持続時間は異なります。狭心症は冠動脈の狭窄状況や発作の程度、頻度によって細かく分類されています。この狭心症がさらに進んで元に戻らなくなった状態が心筋梗塞です。

どういう人が動脈硬化になりやすい?

冠動脈不定化になりやすい因子を「冠危険因子」(リスクファクター)と呼びます。まず、強い関係をもつ因子として、①高LDL(いわゆる悪玉コレステロール)血症、②HDL(いわゆる善玉コレステロール)血中レベルが低い、③高血圧、④男性、⑤糖尿病、⑥家族歴(若年の冠動脈疾患)などがあげられ、中等度に関係のある因子として、①喫煙習慣、②女性の閉経後、③運動不足、④肥満、などがあげられています。

狭心症の検査にはどのようなものがありますか?

心電図(安静時)、運動負荷試験(トレッドミル・エルゴメータなど)、RI(ラジオアイソトープ)負荷検査、ホルター心電図、冠動脈造影、など主なものについて説明します。

運動負荷試験: 狭心症では安静時の心電図は異常がないのが普通です。ですから、わざと負荷をかけて、症状や心電図の変化を観察します。

RI検査: ラジオアイソトープ(放射性同位元素)を静注して心臓への放射性活性の分布をみます。血流の少ない部位では、放射性活性が低くなるので異常がわかります。

ホルター心電図: 安静時狭心症のように負荷では再現できない症状について、夜中や明け方の状態も知ることができるよう24時間持続して心電図を記録するホルター心電図が役に立ちます。

冠動脈造影: 狭心症の疑いが濃厚となった場合、冠動脈のどこにどういう異常があるかをはっきりさせるための最終の検査ということになります。この検査の重要性は昔に比べると遙かに高まっています。それは、治療が進歩し、治療法の選択肢が増えたために、その人にもっともふさわしい治療法を決めるために、冠動脈そのものの詳細な情報が欠かせなくなってきたからです。

狭心症の治療法について

狭心症のもともとの原因は多くの場合、動脈硬化です。いったん起こった動脈硬化を元通りに治すことは現時点ではまだ不可能ですから、動脈硬化がこれ以上進行しないように最大限努力する、ということが治療の大前提になります。そのためには高血圧・高脂血症・糖尿病などベースになっている病気を適切に治療し、さらに禁煙・体重増加の抑制・適当な運動などを行なうことによって、「リスクファクター」そのものをなくす、あるいはその程度をできるだけ減らすことが最も重要です。直接的なものとして次のような治療法が選択されます。

薬物療法: 硝酸薬・カルシウム拮抗薬・交感神経ベータ遮断薬が代表的なものです。その他に、アスピリンなどの抗血小板薬もよく使われます。血管の緊張をできるだけ緩め、心臓の負担を減らし、血液を固まりにくくしておくというのが基本です。

カテーテル・インターベンション: カテーテルを直接冠動脈の入り口まで通します。このカテーテルの中を通して細い(0.010インチ-0.018インチ)針金を狭窄部の先まで送り込みます。この針金をガイドにしてバルーン(一種の風船です)を狭窄部まで持っていき、拡張させ狭窄を押し広げます。さらにステント(コイル状の金属)を挿入することもあります。ステントを入れて広げられた狭窄部は内側から支えられ、再び狭窄することを防ぎます。

バイパス手術: 狭心症に対する薬物療法が不十分で、カテーテルによる治療も困難または不可能な場合に行います。冠動脈の狭い部分には手をつけず、身体の他の部分の血管で狭窄部をバイパスする通路を作成します。バイパス用の血管(グラフト)としては、足の静脈(大伏在静脈:だいふくざいじょうみゃく)、胸の中で心臓の近くにある左右内胸動脈、胃のそばにある右胃大網動脈などを使います。いささか乱暴な言い方ですが、心臓に十分な血液を送るための「配管工事」です。

まとめ

心臓病は悪化してから治療するより、そもそも心臓病にかからないように努めることがはるかに重要です。生活習慣を見直し、定期的に健康診断を受けて参考にして下さい。私ども君津健康センターはいつでも喜んでお役に立ちたいと思っております。

「健康さんぽ54号」

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