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知っておこう!夏の危険生物 Monsters in the Summer

医師 小倉 康平

夏から秋にかけて、全国各地でハチ、ガ、ヘビ、ムカデなどによる被害が相次いでいます。特にアウトドアや屋外での仕事では、単独、または集団で被害にあうケースが想定されます。害虫・害獣の習性や、適切な装備、被害にあったときの応急処置について熟知しておくことが重要です。そこで今回は、夏に被害に合うリスクの高いハチ、ガ、ヘビについてご紹介します。

Bee

10万種類以上のハチの中でヒトを刺すハチは、スズメバチ、アシナガバチの一部に限られています。その中でオオスズメバチとキイロスズメバチは攻撃性が強く、興奮すると単独でも攻撃してくるなど、被害の原因となります。アシナガバチは攻撃性はやや低いですが、毒の成分がスズメバチと似ているため、刺されるとアナフィラキシーショックを起こす危険があり注意が必要です。

スズメバチの攻撃パターンは3段階!
「警戒」➡「威嚇」➡「攻撃」

警戒 巣の数メートル以内に近づくと、周囲を飛び回り、巣の表面に多数のハチが出てきます。近くで大声を出したり、強い振動を与えないようにしましょう。
威嚇 まとわりつくように飛び回り、大アゴを噛み合わせて「カチカチ」という威嚇音を発します。これを無視して近づいたり刺激すると、偵察バチが警報フェロモンを噴霧し、一斉に攻撃します。
攻撃 一斉に巣を飛び出し、「侵入者」を数十メートルにわたって執拗に追いかけて刺しに来ます。興奮が激しいと、噛み付いたまま何度も刺すため、重症になることもあります。

スズメバチやアシナガバチの毒の作用は「直接作用」と「アレルギー作用(アナフィラキシー反応)」に分けられます。直接作用とは、ハチ毒に含まれる化学物質による作用のこと。局所が腫れ、赤くなり、痛みます。症状は体内に入った毒の量に依存し、刺傷数が多いと全身に症状が出ることもあります。

アナフィラキシー反応は、ハチ毒に対するアレルギー反応です。通常、数分から十数分以内に、全身の浮腫、吐き気、めまい、呼吸困難、血圧低下、意識消失などを起こします。2回目に刺された時に起こりやすいと言われていますが、「初めて刺された時には起こらない」とは限りません。頭部に近い場所(顔、喉など)や、全身を多数箇所刺された場合、呼吸困難や心不全で死に至ることもあります。死亡例の多くでは、受傷後1時間以内に死亡しています。また、毒液が眼に入ると激痛を引き起こし、毒液の量が多いと角膜浮腫や眼炎などを起こして失明することもあります。(スズメバチは毒液を霧のように空中に散布します)

スズメバチは自分より目線の低い場所は見えません。スズメバチと遭遇したら、姿勢を低くしてゆっくり避難してください。オオスズメバチは「警戒」からいきなり「攻撃」に移行することが多く、巣が大きく働きバチが多い場合、巣を刺激していなくても速やかに現場から離れないと、多数のハチに攻撃されることがあります。又、手やタオルなどでハチをはらう行為は、ハチを刺激し、攻撃をエスカレートさせます。絶対にやめましょう。
また、ハチに遭遇するおそれのある場所に行く際は、白い長そでの上着と長ズボンを着用し、手袋を着ける、首にタオルをまくなど肌の露出をできるだけ少なくしましょう。また、ポイズンリムーバーやエピペンをすぐに使えるよう携行してください。黒い服やヒラヒラした服、露出の多い服、毛製品、香りの強い香水やヘアスプレーなどは避けましょう。また、作業を行う数日前に現場の木々に殺虫剤をまいておくなどすることでハチを寄せ付けないようにするのも有効です。

アナフィラキシーショックの症状緩和には「エピネフリン注射」が有効です

① 注射器を太ももの前外側に垂直に当て、オレンジ色のニードルカバーの先端を「カチッ」と音がするまで強く押しつける。
② 太ももに押し付けたまま数秒間待ってから注射器を抜き取る。

エピペンは、講習を受けた医師から誰でも購入することが出来ます。アレルギーの既往歴があり、アナフィラキシーを発症する可能性が高い方や、林業、電線の仕事、養蜂など、ハチの巣が身近にあると想定できる方は携帯すべきでしょう。

成人用は0.3㎎の製品で10,500円程度。有効期限は1年です。1年ごとに処方医に返却して新しい物を購入します。使用した場合は、使用済みのエピペンを処方医に返却し、新しい物を購入します。

Moth

4月~11月にかけてドクガによる被害が多いですが、ドクガの中でも最もよく見られ、被害が多いのがチャドクガによるものです。ドクガ類の幼虫は、毒針毛と呼ばれる細かい毛で覆われており、これが皮膚につくと痒みの強い皮膚炎(ドクガ皮膚炎・毛虫皮膚炎)を起こします。毒針毛は風に乗って飛散する他、成虫の尾端部にも付いています。

毒針毛に触れると体内に抗体ができ、2度目以降はアレルギー反応を引き起こします。したがって、1回目より2回目、3回目の方が症状が重くなるのです。重症化したり、皮膚炎が全身におよぶと、痛痒感で眠れなくなったり、発熱やめまいを生ずることもあります。

庭木などでドクガの幼虫を見つけた際は、一枚の葉に群がって葉を食べているうちに、幼虫がいる葉に袋などをかぶせ、枝ごと切り取って処分します(幼虫が樹木全体に広がると駆除が難しくなります)。帽子、長そで、手袋、マスク、メガネ、首にタオルを巻くなどして、肌を露出しないようにして作業してください。殺虫剤も有効ですが、毛虫が落ちてくるので注意が必要です。また毛虫が死んでも毒針毛はそのままですので、死骸や樹木に残っている毛にも注意してください。

Viper

沖縄を除く日本本土に生息するヘビはたったの8種類。その中で毒ヘビはマムシとヤマカガシの2種類です。

マムシは全長45~80㎝。胴が太く短く、淡褐色の体に銭形模様をしています。水辺や草むら、土手、山地、森林などに生息します。毒は出血毒で、咬傷被害での死亡例が多い危険なヘビです。

ヤマカガシは全長70~150㎝。体色は地域により変異に富んでいます。毒は出血毒で、止血機能を阻害し、重篤な場合は死に至ります。

ヘビに遭遇した時は、体を動かさず、静かにヘビが去るのを待ってください。捕まえたり、駆除しようとしたりすると危険です。ヘビは生息環境によって色や大きさに個体差が大きく、見た目から毒ヘビかどうかを判断することは困難です。一般に、無毒のヘビに咬まれた場合には、咬まれた傷の周囲は腫れません。したがって、傷の周りが腫れたり、変色した場合には毒ヘビに咬まれた可能性が高いと考えられます。

マムシに咬まれると、しばらくして激痛が襲い、内出血が拡大し、患部は腫れ上がり、ひどい場合には筋肉が壊死します。手当てが遅れたり、咬まれた部位や注入毒量によっては循環器全体や腎臓にも障害が広がり、重篤な場合は死に至ります。一命を取り留めたとしても、手足の切断や高度の後遺症など、悲惨な結果を迎えることがあります。ヤマカガシの出血毒はマムシやハブの毒とは少し異なり、止血機能を強力に阻害し、出血が止まらなくなるため、「溶血毒」とも呼ばれます。ヤマカガシの毒性は、ハブ毒の10倍、マムシ毒の3倍とも言われており、全身の皮下出血、内臓出血がおこり、重篤な場合はDIC(播種性血管内凝固症候群)から急性腎不全や脳内出血を引き起こし、死に至ります。

ただし、ヤマカガシには、クサリヘビ科のハブやマムシと違って前歯に鋭い毒牙がなく、上あごの奥歯(後牙)が毒腺につながっていて強力な出血毒を注入します。そのため、咬まれても多くの場合、ほとんど毒液が体内に入らず大事には至りません。また、元来、おとなしいヘビで、手で触ったり踏みつけたりしない限り咬まれることはありません。

強い毒を持っている動物も、基本的には憶病で、触られたり、テリトリーを荒らされたりしなければ積極的に襲ってくることはありません。山や森に入る際は、道を外れて茂みに分け入ったりはせず、ルールを守って、楽しい夏をお過ごしください!

以上

「健康さんぽ71号」

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