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私の趣味

医師 安西 永理佳

私の祖父は習字、祖母は絵葉書が趣味でした。父と母は札所巡りが趣味で、時間ができれば旅行に出かけています。父や母からは「趣味があると人生が豊かになる」と言われてきましたが、その時の私には趣味らしい趣味がなく、父や母の言葉も「ふーん、そうなんだ」と聞き流していました。

そんな私に編み物という趣味ができたのは研修医2年目のことです。編み物を始めたのは、患者さんに教えてもらったことがきっかけです。精神科病院での1か月間の研修中に入院患者さんを何人か受け持つことになったのですが、そのうちの1人の女性患者さんがなかなか心を開いてくれず、私と会話をしてくれないので困っていました。研修開始からしばらくそんな状態が続きましたが、ある日その患者さんの部屋を訪ねた時にきれいなクッションカバーを編んでいたので「上手ですね」とほめたところ、初めて嬉しそうな反応を見せてくれ、編み物が得意であることをボソッと教えてくれました。そこから編み物の話であれば会話をしてくれるようになり、編み物の会話を重ねるなかで少しずつ心を開いてくれたようでした。最終的には私に編み物を教えてくれて、2人で編み物をしながらいろんな会話ができるまでになりました。最初は患者さんに心を開いてもらうのが目的で編み物をしていましたが、だんだん編み物自体が楽しくなって、気づけば研修が終わっても自分で毛糸を買って編むようになっていました。

趣味というのは私が思っていたよりも様々な効果があると実感しています。編み物をしているとき、余計なことを考えずに集中することができます。誰でも終わったことを「あれでよかったのか」と心配になったり、「ああすればよかった」と後悔したりしてしまうことがあると思うのですが、私はそういうときに編み物をすると余計なことを考えず集中でき、いつの間にか不安や後悔を忘れてしまっています。患者さんと私のように趣味を介して人と人とがつながることもあります。普段何かに挑戦することがほとんどない私ですが、時間がかかる大きな作品を編んでみたり、自身で図案を考えてみたりと、編み物ではどんどん挑戦し、出来上がった時には達成感を得られています。

学生時代は大きなストレスもなかったので聞き流していましたが、社会に出て生きていくことの大変さを知った今は「趣味があると人生が豊かになる」という意味がわかってきた気がします。

この冬は今までで一番の大物であるカーディガンに挑戦しようと思っています。まだ毛糸も買っていませんが、デザインや配色を考えているだけで楽しい気持ちになってきます。今から出来上がりが楽しみです。

「健康さんぽ93号」

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