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脱水と健康障害

医師 桝元 武

今回は脱水と健康障害についてお話ししたいと思います。

1.人体の水分バランス

成人が健康な生物として生きていくための生理的な水の収支バランスについては、摂取するほうは、飲料水1200㎖、食物水分1000㎖、燃焼水(体内で代謝のとき生ずる水)300㎖の合計2500㎖です。排出するほうは、尿1200㎖、皮膚・肺からの不感蒸泄1200㎖、糞便100㎖の合計2500㎖となります。

もし水の補給が完全に断たれた場合、環境条件にもよりますが、毎日体重の2%の割合で水分が失われていくことになり、15~20%の水分が失われるとヒトは生命の維持ができなくなります。つまり7~10日で生命がなくなり、これは、絶食に比べてきわめて短いことになります。あまり意味のない情報かもしれませんが、水分とミネラルを摂取していれば、理論上1か月以上食物をとらなくても生存できるという説もあります。

もうひとつの重要なことは、ヒトの体温上昇にともなう水の役割です。この場合、生体は凝固し生命を維持できなくなります。つまり、水は急激な体温の上昇を防ぎ放熱するのにきわめて有益なことと、さらに、水の表面張力が大きなことは、細胞間隙(さいぼうかんげき)や毛細管腔(もうさいかんくう)をすみずみまで体液で満たす大きな役割を果たしています。まさに水は生命の源と言えるようです。

2.脱水による健康障害について

尿、汗等の喪失量に見合う水分・ミネラル分を適量摂取できれば、血漿浸透圧は一定に保たれますが、水分摂取量が不足すると血漿浸透圧が上昇し、のどが渇き、尿が濃縮されます。水分摂取量不足は、健康障害や重大な事故の大きなリスク要因の一つとなります。

(1)熱中症

消防庁のデータによれば、平成25年夏季(6~9月)に熱中症で救急搬送された方は、全国で58,729人にもなり、統計を取り始めてから最多となっています。救急搬送人員の年齢区分をみると、高齢者(65歳以上)が27,828人と最も多く、次いで成人(18~65歳未満)23,062人、少年(7~18歳未満)7,367人、乳幼児(生後28日~7歳未満)466人の順となっています。発症しても救急搬送されなかった方はこの数倍になると思われます。

発汗によって血液中の水分が減少すると、生体内では細胞外液と内液の移動によって循環機能に支障を来さないような体液を維持するような調整が行われます。しかし、水分補給を行わないと、脱水による血液の濃縮のために循環不全を起こし、酸素や栄養素の運搬、あるいは体温調節にも重篤な障害を起こして熱中症を起こすことがあります。

熱中症とは高温環境下での障害の総称です。労働現場だけでなく、スポーツ活動や日常生活の中でも発生し、死亡者の発生も見られます。いくつかの分類方法があり、その1例を示します。

熱失神 発汗による脱水と末端血管の拡張によって、脳への血液の循環量が減少した時に発生。体温は正常であることが多く、発汗が見られ、脈拍は徐脈になる。
熱痙攣 大量の発汗後に水分だけを補給して塩分やミネラルが不足した場合に発生する。突然の不随意性有痛性痙攣(腹痛が多い)と硬直で生じる。体温は正常であることが多く、発汗が見られる。
熱疲労 多量の発汗に水分・塩分補給が追いつかず、脱水症状になったときに発生する。症状は様々で、直腸温は39℃程度まで上昇するが、皮膚は冷たく、発汗が見られる。
熱射病 視床下部の温熱中枢まで障害され、体温調節機能が失われる。高度の意識障害が生じ、体温が時に40℃以上まで上昇、発汗は見られず、皮膚は乾燥。緊急入院で速やかに冷却療法を行う必要がある極めて危険な状態。

(2)脳梗塞

脳梗塞とは、脳血管が閉塞又は狭窄し、脳虚血を来たし、脳組織が酸素または栄養の不足のため、壊死または壊死に近い状態になる疾患を言います。平成23年の人口動態統計によれば、脳梗塞による死亡者数は73,273人で日本人の死亡原因の中でも多くを占めています。後遺症を残して介護が必要となることが多く、福祉の面でも大きな課題を伴う疾患です。発症時間で最も多いのが夜間から早朝にかけてで、就寝中は水分をとらずに脱水傾向になることと、就寝中は身体活動がほとんどないため血圧も低下すること、また、年間を通じては夏と冬に多く、夏は脱水、冬は身体を動かさなくなることが発症と関わっているとされています。

(3)心筋梗塞

心筋梗塞とは、虚血性心疾患のうちの一つで、心臓そのものに血液を供給している冠動脈の血流量が下がり、心筋が虚血状態になって壊死または壊死に近い状態になる疾患を言います。平成23年の人口動態統計によれば、急性心筋梗塞による死亡者数は43,265人で日本人の死亡原因の中でも多くを占めています。動脈硬化病変を基盤として脱水状態になった場合には、閉塞性血栓が発生し、心筋梗塞に至る場合があります。

(4)水中毒

水中毒とは、過剰の水分摂取によって生じる中毒症状です。人間の腎臓が持つ最大の利尿速度を超える速度で水分を摂取すると体内の水分過剰で細胞が膨化(ふくれあがること)し、低ナトリウム血症を引き起こす水中毒に陥ります。血液中のナトリウムイオン濃度の低下に伴い、右表の症状が生じます。ナトリウムイオン濃度単位に関してはあまり気になさらず参照してください。

下痢や嘔吐など激しい脱水症状を起こした際に、水やスポーツドリンクのみを大量に与えると、特に乳幼児においては水中毒を引き起こすことがあります。一般的なスポーツドリンクではナトリウム濃度が低すぎることから低ナトリウム血症に陥ることが原因です。スポーツドリンクに塩分を少し補うのも手ですが、このような脱水時には経口補水液を用いるべきです。大塚製薬の経補水液オーエスワンは消費者庁から個別評価型病者用食品の表示許可を取得しています。

水分と電解質の補給には、経口補水液が最適

下痢や嘔吐、発熱による発汗時は、体内の水分や電解質が失われ、脱水のリスクが高まります。水分と電解質の補給には、ただの「水」ではなく身体が失った水分や電解質を効率よく吸収させるための経口補水液が最適です。ただし、経口補水液は一般のイオン飲料よりも電解質の濃度が高いため、医師や薬剤師、看護師、管理栄養士の指導の下、飲用することが推奨されています。

(5)その他

いわゆるエコノミークラス症候群(深部静脈血栓症)等の予防のためにも、飛行機搭乗中の水分補給と軽い運動は非常に重要とされています。また、誤った知識に基づくダイエットや水分補給についても注意が必要です。

3.乳幼児の脱水

小さなお子さまの身体の水分量は、生まれた時は約80%、発育とともに70%となり、大人に向かい60%となります。ただし、乳幼児の体内での代謝は活発であるため、大人が気づかないうちにたくさんの水分を失ってしまうときがあります。大量の発汗の後や、元気がない・ぐったりしている状態のときなどお子さまの変化を見逃さないことが重要です。脱水症状が治まらなかったら、できるだけ早く小児科を受診するようにしましょう。

4.お年寄りの脱水

お年寄りは体内の水分量が少ないため、普段より多く汗をかくだけでも脱水症の原因となります。水分摂取量が少ないと、体調が悪くなり、食欲不振から食事量も減少してしまい、さらに脱水状態を進行させてしまいます。周囲の方は、常にお年寄りのコンディションを気づかうことが大切です。

生活環境では『室内の設定温度が28度を越えている』『室内の風通しが悪い』『直射日光のあたる部屋にいる』、生活態度では『一日中長袖厚着でいることが多い』『水分を摂取する量が少ない』『急速な食欲の低下』など、こんな条件に当てはまったら、一度、脱水を疑ってみましょう。
また、急激に体重が落ちるなどの症状がみられたら、医師に相談するようにしましょう。

お年寄りの脱水を見逃さない方法
痰がからんだ咳を繰り返す:水分の摂取が極端に少なくなると、痰がからみやすくなります。
脇の下に汗をかかない:お年寄りの脇の下に手をあてて下さい。脇の下は湿っているのが普通ですが、脱水状態になるとその湿り気がなくなります。
ハンカチーフサインで確認する:手の甲の皮膚をつまみ上げてチェックする方法です。正常な状態ならすぐ元に戻りますが、脱水を起こしていると、ハンカチをつまみ上げて離したようにしばらく戻りません。

5.災害時の注意

避難場所でも注意したいのは脱水です。避難場所・仮設住宅は自宅のようにきめ細かい温度調節をすることができず、体調を崩しやすい環境と考えられます。充分な食事や水分摂取ができないと、体力・免疫力も低下するため、衛生環境が悪い避難所などでは感染症のリスクが高まり、時には下痢・嘔吐など脱水状態の原因になる症状に陥ることも考えられます。また、心理的なストレスによって食欲が減退することもあります。1日に何度も仮設の狭いトイレに立ったりしゃがんだりするのが面倒になり、食事や水分摂取を意識して控えがちになると脱水状態が進行してしまうこともあります。

6.渡航先での脱水

下痢の原因で最も多いのは細菌感染症です。衛生状態の悪い地域での水や食べ物、食器などは細菌で汚染されている場合があります。屋台や比較的安価な飲食店などでは、提供される水は水道水であることが多く、氷も水道水で作られていることが多いので、ペットボトルのミネラルウォーターを飲みましょう。ガス入りミネラルウォーターの方が偽物は少ないので望ましいです。生ものは避け、熱がしっかり通ったものを食べましょう。果物は自分で皮をむいて食べる方が安全です。日本のように何の問題もなく水道水を飲料に用いることができるのは世界でもむしろ例外的なことであることをどうかお忘れなく。

最後に、いろいろ調べて、では何をすればいいかという結論は次の通りです。

熱中症の危険のある職場環境で働く際は、30分以内に紙コップ1杯以上の水分かスポーツドリンクを摂取すること、デスクワークや家屋内にいる場合はこれまでよりコップに2、3杯多くの水分かスポーツドリンクをとること、です。以上が皆様方のご参考になりましたら幸です。

参考:大塚製薬ホームページ

「健康さんぽ63号」

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