一般財団法人君津健康センター一般財団法人君津健康センター

健康コラム君津健康センターの医師・スタッフから、
こころとからだが元気になるコラムを発信していきます。
みなさまの健康生活にぜひお役立てください。

腸活のススメ

医師 増田 眞子

皆さま、新年あけましておめでとうございます。年末年始は、ご家族あるいはご友人、中にはお一人で、思い思いのゆっくりした時間を過ごせましたでしょうか。日常と異なる時間を過ごすことで、リフレッシュできる好機となると同時に、中には美味しい食事やお酒をいつも以上に摂取して、少し体調を崩している方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで、今回は数年前より話題になっている「腸活」について深掘りしていきたいと思います。私自身、本稿を書くにあたって、以下の書籍を参考にさせていただきました。非常に興味深い内容でしたので、さらに詳しく知りたい方はぜひ一度手に取って読んでみてください。
(今回参考にした書籍)
1.『9000人を調べて分かった腸のすごい世界 強い体と菌をめぐる知的冒険/著者:國澤 純/発行:株式会社日経BP/発行日:2023年4月24日』
2.『新しい腸の教科書 健康なカラダは、すべて腸から始まる/著者:江田 証/発行:株式会社PHP研究所/発行日:2020年5月25日』

❖ 腸の様々な役割

腸の役割と聞いてまず思い浮かぶのは「食べ物を消化して、栄養を吸収し、不要なものを排出するところ」ではないでしょうか。腸には大きく「小腸」と「大腸」があり、主に小腸で食物の消化・栄養の吸収を行い、続く大腸で不要なものや有害なものを便として排出します。これは腸の主な役割の一つですが、決してそれだけではないということを知って欲しいと思います。「腸活=お通じ改善」だけではないということです。
腸はかなり広い役割を担っているのですが、ここでは先に述べた消化・吸収・排泄以外に3つの役割についてお話ししていきたいと思います。

➀ 免疫機能
1つ目は「免疫機能」です。実は腸には体の半分以上の免疫細胞が集まっていて、人体最大の免疫器官として役割を担っているのをご存知でしょうか。口から入ってくるものは飲食物だけではなく、ウイルス・病原体・ホコリなどの有害な異物も混入します。こうした「体に吸収すべき栄養」と「体から排除すべき異物」が常にごちゃ混ぜになっている腸内では、正しく仕分けを行い、さらに異物から防御する「体の番人」としての役割が重要なのです。腸活を進めると、免疫力アップにつながるので、昨今の感染症の話題からも、腸活は非常に意味のある取り組みだと言えますね。

➁ 老化防止
2つ目は「老化防止」です。腸管は「絨毛」という無数のヒダが覆っていて、そのヒダの表面は「上皮細胞」と呼ばれる細胞がぴっちりと接合し、危険な異物が体内に入らないよう関門としての役割を果たしています。しかし、何らかの原因によってその関門が緩むと、ヒダの隙間から異物が侵入します。この門が開きっぱなしになると、異物が侵入し続け、先に述べた「免疫」としての機能がオーバーワーク状態に陥って、炎症を起こし「体の調子がおかしい」「だるい、疲れが取れない」といった全身症状が表れます。そういった「病院に行くほどではないけど・・・」の炎症を放っておくと、いつの間にか細胞は大ダメージを受けて、老化や生活習慣病、さらには動脈硬化、がんなどの病気につながります。良い腸内環境を整え、腸の老化防止に努めたいですね。


➂ メンタルとの相関性
3つ目は「メンタルとの相関性」です。いきなりですが「脳腸相関」という言葉をご存知でしょうか。皆さま、一度は経験があるかもしれませんが、「緊張するとお腹がグルグルと調子を崩し、トイレに行きたくなる。」ということはありませんか。それはまさに「脳の状態が腸に影響を与えている」現象なのです。
しかし、それだけではなく「腸の状態が脳を変える力を持つ」ということも分かってきたようです。メンタルが安定しない時に、思考をコントロールするのはなかなか難しいですが、 腸に良いことをすることで、結果的に精神面を整えることができる可能性があるのなら、少しずつでも腸活に取り組んでみようという気持ちになってきませんか。

ここでは大きく3つの役割を紹介しましたが、その他にも幸せホルモンであるセロトニンを作る、痩せ菌・デブ菌など体型に関与する腸内細菌がいるなどなど、腸内環境を整えることで期待できる効果というのは多岐に渡り、まだまだ解明されていないことも多くあります。気になる方はぜひ調べてみてくださいね。

❖ 腸内細菌の力

ヒトの腸内に生育する菌の数は100兆個に及ぶとされ、人体を構成する細胞数(30〜50兆個)を大きく上回ります。腸内細菌はヒトの体を宿主とし、ヒトが食べたものをエサにして生息し、その中でヒトが合成できないビタミンを生成したり、有益な代謝産物を生み出しています。つまり、菌とヒトは互いに共生関係にあり、私たちヒトは細菌に棲み家を与える一方で、細菌から助けられて生命の恒常性と健康を維持しているのです。ヒト(宿主)から与えられるエサ(食事)の質と量によって、腸内細菌そのものも、その菌が生み出してくれる代謝産物も大きく異なります。この代謝産物を「ポストバイオティクス」と呼び、今後の健康や体質を考えていく上で重要なキーワードになります。代表的なポストバイオティクスに「短鎖脂肪酸」というのがあります。腸内細菌が食物繊維やオリゴ糖をエサにして生み出す成分で、有害な菌の発育を抑制して有用菌の発育を促す、腸の活動エネルギーとなってぜん動運動を活発化する、腸管のバリア機能を強化、免疫の働きを整える、血糖値を一定に保つインスリンの分泌を調整する、生活習慣病や肥満予防など、人体にとってたくさんの良い影響を与えてくれます。短鎖脂肪酸以外にも様々なポストバイオティクスによる恩恵が解明されつつあり、ぜひとも良いエサを取り入れて、良好な腸内環境を整えていきたいですね。

❖ 腸内環境を整える習慣と食生活

最高の腸内環境を整えるために、最も重要なのは食事です。戦略として、①良い菌を 摂取する、②菌が喜ぶエサを与える、これらを意識して食事を考えると良いでしょう。

➀ 良い菌を摂取する
良い菌=有用菌である、ビフィズス菌・乳酸菌・糖化菌・酢酸菌・酪酸菌をたくさん含む食品を食べることが大切です。その食品とは「発酵食品」です。ヨーグルト、納豆、味噌など、私たちの身近には多くの発酵食品があります。ご自身が取り入れやすい食品を選んでみてください。さらに、これら発酵食品を摂るタイミングですが、空腹時に摂取するのは望ましくないようです。空腹時は胃酸が多く出ているため、胃内でせっかくの菌が死滅し、生きたまま腸に届かない可能性があります。ヨーグルトは朝摂取する方も多いかと思いますが、朝起床直後は特に胃酸が多く出ているため、野菜でも果物でも何かしら胃に入れてから、食後のデザートとしてヨーグルトを摂取するのが良さそうです。
ただし、このように食品あるいはサプリメントから摂取する菌の多くは「通過菌」と言われ、基本的に腸内に常在することはなく、3日間〜最大2週間程度が限界のようです。
通り過ぎる中で、食物繊維を糖に分解して短鎖脂肪酸を生み出したり、常在する自前の腸内細菌の増殖を促したりと様々な役割を果たします。「良い菌を摂取する」ことの目的は、腸内に定着させることではなく、常在している自前の有用菌にいい刺激を与え、徐々に環境を良くしていくことです。発酵食品は一度摂取して満足ではなく、習慣的に摂取していきましょう。

➁ 菌が喜ぶエサを与える
有用菌が喜ぶ代表的なエサとして、水溶性食物繊維と難消化性オリゴ糖を紹介します。私たち日本人の腸には、食物繊維や難消化性オリゴ糖などをエサにする腸内細菌が圧倒的に多いということが知られており、やみくもな食事制限はせず、これから紹介する食品を上手に食事に取り入れていきましょう。
水溶性食物繊維
まず食物繊維とは、炭水化物から糖質を除いたもので、胃や小腸で消化されずに大腸まで届きます。その食物繊維には大きく、水に溶けにくい不溶性食物繊維と水に溶けやすい水溶性食物繊維の2種類があります。不溶性食物繊維は水分を含むと膨らんで便のかさ増しをし、腸を刺激してぜん動運動を促すという良い作用があります。一方で水溶性食物繊維は、ここでお話しする腸内細菌のエサとなります。残念な点は、不溶性食物繊維は豆類・野菜・きのこ類など多くの食品に含まれているのに比べ、水溶性食物繊維は日常使いの食品にあまり含まれていないようです。そのため意識的に摂取する必要があります。水溶性食物繊維を多く含む食品として、オーツ麦(オートミール)、大麦(押し麦やもち麦)、納豆、ブロッコリーなどがあります。


難消化性オリゴ糖
オリゴ糖にも食物繊維と同様、胃や腸で消化される「消化性」と大腸まで届く「難消化性」の2種類があり、難消化性の方が腸内細菌のエサとなります。これを含む代表的な食品は、玉ねぎ、ゴボウ、大豆食品、バナナ、牛乳などです。また加熱して冷えた後の穀物や豆類、イモ類に含まれる難消化性でんぷん(レジスタントスターチ)も有用です。主食としてオートミールや大麦を取り入れることに抵抗がある方は、ご飯を一旦冷まして食べるというのも一つの手です。「冷ます」といっても手を当てて熱を感じない程度で良いので、お弁当で朝から詰めたご飯をお昼時に食べると丁度良い温度加減になっていると思います。

ここまでオススメの食品たちを紹介してきましたが、これら「だけ」を食べることは決して良い食生活とは言えません。健康な条件は、腸内細菌のバリエーションが多いことであり、様々な食品を摂取することを意識しましょう。
腸活について学ぶなかで感じたことは、「良い食生活」というのは個人個人で異なるということと、何事も「これだけ」という偏った考え方は良くないということです。例えば、ヨーグルト一つ取っても、乳酸菌の菌株の種類やその菌種の機能によって、その人の腸に合うヨーグルトは異なるようですし、一般的に腸に良いとされる発酵食品や食物繊維も、それだけを摂取し続けるとかえって腸の環境を悪くしてしまうこともあるようです(気になる方は「小腸細菌増殖症(SIBO)」というキーワードを検索してみてください)。

ここで紹介した腸活はあくまで一部であり、決してこれが全てではありませんので、本稿を読んで少しでも腸活に興味を持たれた方は、実際にご自身で腸活の本を読んでみて、ご自身の生活に取り入れることができそうな事からチャレンジしてみて、今後20年30年と健康に生活できる身体の基盤を作っていきましょう。

「健康さんぽ101号」

※一般財団法人君津健康センターの許可なく転載することはご遠慮下さい。