一般財団法人君津健康センター一般財団法人君津健康センター

健康コラム君津健康センターの医師・スタッフから、
こころとからだが元気になるコラムを発信していきます。
みなさまの健康生活にぜひお役立てください。

花粉症のはなし
~追記:PM2.5~

医師 桝元 武

1.花粉症とは

花粉症とは花粉成分である植物タンパク質に対するアレルギー反応の総称です。日本では、原因は圧倒的にスギ花粉です。花粉症は日本だけではなく、中国にも見られ、ヨーロッパ諸国ではイネ科花粉症、アメリカではブタクサ花粉症が多いと言われます。

花粉症のメカニズムですが、スギ花粉が体内に入ると免疫反応で「化学伝達物質」が大量に作られます。その中に「ヒスタミン」という物質があり、これが毛細血管の拡張・浮腫、脳内のくしゃみ中枢への刺激、鼻粘膜の粘液分泌亢進をもたらします。その結果、目の充血、くしゃみ、鼻づまりなどの症状が出現します。

花粉症の歴史: 人類は古代から花粉症と思われる症状に苦しんでいたことが古い記録に多く残っています。世界で最も古い記録は、紀元前1800年バビロニアのシュメール人の呪文に記された鼻アレルギー症状です。そして、紀元前460年頃の古代ギリシアの医師ヒポクラテスが、花粉症と思われる病気について記録しており、体質と季節と風が関係していると述べています。また、紀元前100年頃の古代中国にも春になると鼻水や鼻づまり、くしゃみなどの症状がよく発症するとの記録があり、花粉症の歴史は非常に長いことがうかがえます。

また、19世紀はじめのイギリスで、刈り取った牧草を乾燥させるために、サイロに収納する作業をしていた農民の間に、くしゃみ、鼻水、涙などが止まらなくなるという症状がありました。これに伴い、発熱も見られたことから「枯草熱(hay fever)」と呼ばれました。

2.花粉症が増えてきた理由

(1) スギの事情
スギは通常、植樹後35~45年で伐採されるといわれます。第二次世界大戦後、住宅再建のため大量に植樹され、昭和50年代には伐採される筈でした。しかし安価な輸入材が急増し、国内の森林資源を競争力ある良質材とするため伐採が延期され現在に至っています。今後20年間は花粉を大量に出す青・壮年のスギは存在するといわれます。現在花粉が少ないスギの開発が進められていますが、すっかり入れ替わるには数十年はかかります。もうしばらくの間はスギ花粉と付き合っていくほかはありません。

(2) ヒトの事情
最近の住環境は冷暖房効率化や防犯のため密室化する傾向があります。そのため、高温多湿化し、イエダニの繁殖につながっています。そうなると、ダニに対するアレルギーが発現する事で体内の免疫力が全体として向上し、結果的にスギ花粉に対する過剰反応をもたらします。
食生活面では、離乳食の高タンパク化があります。成長過程のあまりに早い時期にタンパク質(異物)摂取が多すぎると人体はそれを敵とみなしてしまうため、若い世代ほど食物アレルギー、アトピー性皮膚炎、花粉症に悩まされているのです。かなり昔の、すきま風が吹き込む家屋や動物性タンパク質が少なかった粗食はそれなりに健康に良かったという証明です。もっとも、栄養状態が不良だったことで命を落とした人も決して少なくなかったことを忘れてはいけません。

(3) 大気の事情
トラックなどディーゼルエンジンの排気ガスには、ディーゼル排出微粒子:DEP(diesel exhaust particle)という物質が含まれています。これは免疫力を高める作用があるため、大気汚染で免疫がアイドリング状態となり、春先のスギ花粉でスタートしてしまいます。スギ並木で有名な日光市でも、車の通行量の多い国道近くに住んでいる人の方が、道から離れたスギ林の中に住んでいる人よりも症状が強いという報告があります。

1年中花粉症?: わが国では約80種の植物の花粉が花粉症の原因となると言われています。中でも「スギ花粉症」、「イネ科花粉症」、「ブタクサ花粉症」は3大花粉症と言われています。特に、スギ、ヒノキ、シラカンバ、ハンノキ、ヨモギなどは飛散花粉量が最近著しく増加しています。

植物によって花粉の飛散時期が違います。スギ花粉症は、冬から早春の感冒流行期とオーバーラップしますので、きちんと区別して適切な治療をする必要があります。また、原因となる花粉の種類によっては、夏や秋に発症することもあります。花粉症か否かの診断は、血液検査や皮膚テストなどで簡単に検査ができますので、自己判断せずに早めに医療機関に行きましょう。

3.花粉症の診断・治療・予防

血液検査で免疫の強さを判定したり、皮膚に原因物質を貼り付ける検査で抗体の種類がわかります。高度な検査や高価な検査ではなく、どの病院でも手軽に検査を受けることが出来ます。

(1) 治療について
抗アレルギー剤
予防が主で、症状が起きてからではあまり効きません。
抗ヒスタミン剤
主力薬剤で効果も高いのですが、副作用の眠気に注意が必要です。車の運転は気をつけて下さい。
ステロイド剤
強力な抗炎症作用を持ちますが、副作用に注意が必要で、必ず医師の指導の下に使用して下さい。

上記3つはいずれも内服薬、点眼薬、点鼻薬があります。なお、妊娠中の方であっても点眼薬や点鼻薬はほぼ問題なく使用できますが、主治医に必ずご相談下さい。

その他に「減感作療法」があります。これはスギ花粉のエキスを薄めて注射し段々その濃度を高めて身体に慣れさせていくというものが主流ですが、治療期間が約1年かかる割には効果が安定しません。また、「レーザー療法」は、免疫反応が開始する場所である鼻の粘膜の一部をレーザーで焼き切って免疫反応を押さえるというものですが、せっかくの防御機構を壊すことにもなります。治療する部分は鼻ですから、

目の症状の改善は期待できません。重症の場合、鼻の内部を一部切り取るという手術法を取ることがありますが、あまり一般的ではありません。花粉症の時期だけ抗ヒスタミン剤を早めに使用するのが最も賢明と思われます。内服より点眼薬と点鼻薬の使用が副作用は少なくお勧めです。なお、花粉症の薬は病院で処方されるものと市販薬で効能に大きな差はありません。

(2) 予防について
花粉への接触回避に尽きます。花粉症の時期の外出は最低限にとどめ、その際は花粉症防止のマスクやゴーグルタイプの眼鏡を着用しましょう。家屋に入る際は服をはたいて入室し、うがいと洗顔でのどと顔に付着した花粉を落としましょう。ふとんや洗濯物は花粉の飛散する季節は屋外に干さないことが必要です。室内では空気清浄機で花粉を除去するのもおすすめです。
まとめ 生活上の注意点 6か条
① 不要不急の外出は避けましょう。
② マスク、眼鏡、帽子などを着用して花粉を防ぎましよう。
③ 花粉を家の中に入れないようにしましょう。
花粉除去効果のある空気清浄機もおすすめです。
④ ファーストフードや加工食品の摂りすぎに注意しバランスのとれた食生活に改善しましょう。
⑤ たばこやお酒、刺激性の強い香辛料などの摂取は控え目にしましょう。
⑥ ストレスをなくして、しっかり睡眠を確保するよう心がけましょう。
追記 : PM2.5について (PM;articulate atter;粒子状物質)

大気中に漂う粒径2.5μm(マイクロメートル(1μm=0.001mm))以下の小さな粒子で、従来から環境基準を定めて対策を進めてきた粒径10μm以下の粒子である浮遊粒子状物質(SPM)よりも小さな粒子です。PM2.5は、粒径が非常に小さいため(髪の毛の太さの1/30程度)、肺の奥深くまで入り沈着しやすく、肺がん、呼吸系への影響に加え、循環器系への影響が懸念されています。喘息や気管支炎、じん肺はPM2.5を含めた直径数μmの粒子で起きる病気であることからも健康障害が理解されると思います。

粒子状物質には、物の燃焼などによって直接排出されるものと、硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)、揮発性有機化合物(VOC)等のガス状大気汚染物質が、主として環境大気中での化学反応により粒子化したものとがあります。

発生源としては、ボイラー、焼却炉等のばい煙を発生する施設、コークス炉、鉱物の堆積場等の粉じんを発生する施設、自動車、船舶、航空機等の人為起源のもの、さらには、土壌、海洋、火山等の自然起源のものもあります。現時点では近隣の国からの飛来が問題視されていますが、西日本でさえも我が国の基準を超える粒子状物質が観測されることは決して多くなく、明確な健康影響があるとは断言できないのが現状です。

現在、大気汚染防止法に基づき、地方公共団体によって全国500カ所以上でPM2.5の常時監視が実施されています。PM2.5を含めて各種の大気汚染物質濃度の現在の状況については、環境省(大気汚染物質広域監視システム 【そらまめ君】 http://soramame.taiki.go.jp/ )や多くの都道府県等によって速報値が公表されています。
以 上

「健康さんぽ58号」

※一般財団法人君津健康センターの許可なく転載することはご遠慮下さい。